A KIND OF SHIP by Kristina Jurotschkin
「全ての始まりの前には、他の多くの始まりが存在する。ノアの方舟を代表とする、『アーク(方舟)』という言葉は、ラテン語で箱を意味するarcaに由来する。そして、この箱もある種のアーカイブ構造でもあった。遺産のバックアップのためである。ノアの方舟において、繁殖や複製の概念は極めて重要である。あらゆる種において、2つの存在すれば生き延びることができる。複製の重要性はアーカイブにも当てはまる。アーカイブは遺産の公理であった。すべてのものはやがて破滅へと向かう…私のアーカイブやそれに関連する作業、例えば資料を集めて本にまとめることなど、それら全てを一種の船のようなものだと理解している。現在の私たちの、その未来のためのコンテナである。私たちの現在を、未来の過去であると考えることができる。」
ドイツ在住のヴィジュアル・アーティスト、クリスティーナ・ジュロツキン(Kristina Jurotschkin)による作品集。本書は、コラージュ、執筆、写真や彫刻などの作者の幅広い活動を紹介するバイリンガル・リーダーである。10のテキストと多数のイラストを含む本書は、アーティストの創造性の工程への洞察を提供し、アーティストのデビュー作品集「NOTHING BUT CLOUDS」(MACK)の間接的な付録として読むことができる。
ローリング・ノブラウチ(Loring Knoblauch)は、2018年に作者の作品について語った。「ジュロツキンの写真は抽象的であるのではない、なぜなら抽象的ではないから。私たちの集合的な現代世界における実際の視覚的な断片を示している。しかし、画像は大胆に文脈から切り離され、被写体ではなく、形式的な性質を強調するように構成されている。彼女の観点には、まるで他国人のように科学的な目で世界を見ているかのように、私たちから一定の距離を保ったよそよそしさがある。それぞれの写真は意図的に、縮小されているように感じる。物理的に小さくするという意味ではなく、通常撮影される情報的(及び感情的な)文脈のほとんどが取り除かれているということである。写真は私たちが名前をつけることができるものを提示しているが、それ何を意味し、何を表すのかは完全に神秘的で曖昧なものとなっている。」
作者の執筆へに対する姿勢も同様に切り離されており、近年のサイエンス・フィクション(SF)本をからインスピレーションを得て、さらには物理的に分解していると言える。「私はそれを現象学的読書と呼んでいます」と作者は書く。「ページ上で目に飛びこんでくるものに線を引き、それを切り取り、組み合わせて文章を生み出します」。この形式的なプロセスを経て、作者は社会とテクノロジーの関係についての批判を構築し、そう遠くない未来を予感させる。現状報告と芸術表現の間に位置するこのタイムリーとも言える本作は、私たちが互いに、そして次世代に対し責任を負っていることを暗示しているかのようである。