THE LONG SHADOW UNWRAPPED ~ MARION POST WOLCOTT’S LABOR AND LOVE by Marion Post Wolcott, Odette England

アメリカ人フォトグラファー、マリオン・ポスト・ウォルコット(Marion Post Wolcott)の作品集。1990年にこの世を去った作者の、これまで明かされてこなかった生涯と作品を明らかにする一冊。

作者は、世界恐慌下の1938年、 「農業安定局(Farm Security Administration / FSA ※註1)」に初めての女性常勤写真家として採用された人物である(※註2)。その3年後、9,000枚以上の写真を撮影した作者は、夫のリー・ウォルコット(Lee Wolcott)と、FSAプロジェクトのディレクターである経済学者のロイ・ストライカー(Roy Stryker)から最後通告を受ける。「愛か写真かいずれかを選べ」と。作者は仕事を辞め、11年にわたりヴァージニア州の郊外で3つの酪農場を管理した。農家の人間となり、農夫の妻となったのだ。4人の子を育て、家事に勤しみ、牛の乳を絞り、機械の使い方を学び、農場の家屋を修理した。その経緯から、作者は写真を撮ることを諦めたと思われていた。しかし、その推測は誤りであった。

本書は、写真界における女性像をオマージュ風に省察した一作である。イギリス系オーストラリア人フォトグラファーであり、本書の著者であるオデット・イングランド(Odette England)は、ウォルコットの未公開であった親密なポートレイトや家族との対話を通じ、インタビューや歴史的な記録をもとに改めて書き下ろした文章と並列して写真作品を紹介する。イングランドは自身とウォルコットに共通して見られるものの見方の類似性に呼応している。イングランドの娘であるヘップバーンはまた、写真家として、またミューズとしてこの物語を共有する。このユニークなコラボレーションは、1942年にプロとしてのキャリアを終え、影で写真を取り続けることに癒しを求めた一人の女性の知られざる側面に賞賛を与えるものである。

本書には、イングランドによる序文とテキストのほか、ウォルコットの未発表写真19点が収録されている。

※註1 FSAプロジェクトとは、1929年に勃発した世界恐慌およびその後の旱魃により困窮に陥った農村地域の惨状とその復興を記録するために行った、写真史上最大規模の国家プロジェクト。記録に写真を用いることで、視覚的な記録や伝達性が認知され、農村部救済の必要性を訴られただけでなく、フランクリン・ルーズベルト(Franklin D. Roosevelt )大統領によるニューディール政策の効果をアピールする企画としても機能した。その膨大な写真の多くは、「アメリカ議会図書館(Library of Congress)」で現在も保存されている。

 ※註2 マリオン・ポスト・ウォルコットはニューヨークとウィーンで写真を学び、「LIFE」誌や「FORTUNE」誌などの雑誌にフリーランス・フォトグラファーとして寄稿していた。20世紀における芸術としての写真の確立に貢献したフォトグラファー、ポール・ストランド(Paul Strand)の推薦により、「FSA」史上2人目の女性写真家、初の常勤女性写真家となった。1942年以降、家庭と農業に専念すべくその仕事を退き、プロとして再び写真を撮ることはなかったが、写真を撮ることは止めなかった。

by Marion Post Wolcott , Odette England

REGULAR PRICE ¥8,580  (tax incl.)

softcover
128 pages
180 x 220 mm
black and white
limited edition of 700 copies
2024

published by LIBRARYMAN