LOVE LIFE - DAVID HOCKNEY DRAWINGS 1963-1977 by David Hockney
イギリス人アーティスト、デイヴィッド・ホックニー(David Hockney)の作品集。本書は2022年5月から9月にかけてイギリス・バースの「ホルバーン美術館(the Holburne Museum)」で開催された展覧会をもとに、2023年9月から2024年3月までルイスの「チャールストン(Charleston)」で開催される展覧会に伴い刊行された。
2017年、パリの「ジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センター(Centre national d’art et de culture Georges Pompidou (CNAC-GP)、以下ポンピドゥー・センター)」での作者の回顧展開幕に先立ち、展覧会の最後の壁に作者は「Love Life」と書き記した。このシンプルな「すすめ」は、作者を取り巻く世界に溢れる素朴な美しさを楽しむよう人々へ呼びかける一つの決まり文句となった。
2011年から2013年の間に生まれ故郷のヨークシャーを、最近ではノルマンディーの春の訪れを描いた作品など、作者の抱く命への「愛」は作品を通して感じ取ることができるが、この展覧会では、「命を愛する(Love Life)」という信条が、1960年代以降いかにして作者の芸術を支えてきたかを我々に見せてくれる。
同美術館ディレクターのクリス・スティーヴンズ(Chris Stephens)曰く、「この展覧会は、彼を取り巻く世界への喜びをあらわにし、深く観察し、視覚詩のように最も簡潔な方法で与えられた情景をいかにして画面に凝縮したかを明らかにする」。
テーブルに置かれたマッチ箱、なんの変哲もないネギ。作者がもつこの「喜び」の感覚は、建築物の外観や内観を描く際の演出にも現れており、特にからっぽの部屋、椅子、窓といったものにその興味が注がれている。ポートレイトのドローイングに対してもそのことは重要な点であり、モデルの個性を細かいところまで密に観察して捉えている。レストラン経営者であるピーター・ランガン(Peter Langan)のタイのねじれ、キュレーターであるヘンリー・ゲルドザーラー(Henry Geldzahler)の指に挟まる葉巻.... そしてテキスタイルデザイナーであるセリア・バートウェル(Celia Birtwell)と腰掛けているマルセルブロイヤー(Marcel Breuer)、アーティストのR・B・キタイ(R.B. Kitaj)に背景に描かれたウィーンの通りに走る車など、描くものが何であれ、常に繊細さとある種の確かなウィットをもって描写している。
1960年代から1970年代のドローイングは、作者の作品の中で傑作と言えるシリーズの一つであり、41点のドローイングが個人蔵より貸し出され展示された本展は、クリス・スティーヴンスが力説するように、周りの世界を注意深く観察し、芸術に変換する作者の非凡な才能を堪能する素晴らしい機会であり、前述のように友人や場所、静物が、洞察力とエネルギーをもって描かれている。
クリス・スティーヴンズによる序文、フォトグラファーであるブライアン・ヤング(Brian Young)が1960年代に撮影した作者のポートレイトを掲載、その肖像写真2枚はこれまで未公開であった。
「私は自分の作品を愛している。そして私の作品には愛があり、実際(中略)私は人生を愛している。手紙の締めくくりには、『Love life, David Hockney』と、そう書くんだ。」-デイヴィッド・ホックニー