スコットランド人アーティストのアンドリュー・クランストン（Andrew Cranston）の作品集。作者にとって、版元である「5B」から初めて刊行した作品集である本書は、作者が長年愛用してきた手帳に敬意を捧げる一冊となっている。形はスリムであるが魅力が詰まったこの作品は、スイス出身のドイツ人画家、パウル・クレー（Paul Klee）の絵画と版画のコレクションが収められている。黄みがかったページと折り込まれた写真が載るこの使い込まれたような一冊は、作者にとって長い間便利な参考資料となってきた。掲載されている図版は、作者が個展を開いた初めての施設である、イギリスの美術館「ヘップワース・ウェイクフィールド（Hepworth Wakefield）」で行った展示「What made you stop here?」で展覧された作品の多くに大きな影響を与えている。クレーの本が属する『Fontana Pocket Library of Great Art』シリーズの原題と同様に、本書の目的は、作者の作品を一般の読者に手頃な価格と体裁で紹介することである。

上記シリーズをモデルに本書は作者の作品への入門書としての役割を果たしており、水彩画何点かとひと揃いの新作エッチング作品群とともに、作者の大型作品の豊富なセレクションに焦点を当てている。冒頭にはグラスゴーを拠点とする作家のオリ・ハザード（Oli Hazzard）による啓蒙的なエッセイが掲載されており、驚くほどの色彩、質感、構成の扱いによってコントロールされた、知覚、記憶、物語性にまつわる疑問など、作者に関するあらゆる知識を表現している。それぞれの絵画には、ロンドンとグラスゴーを拠点とする作家であり画家のリザ・ディンブルビー（Liza Dimbleby）による解説が添えられており、リザと作者との長年の友情と会話によって解説は導かれ、形に対する好奇心が染み付いた、思慮に富む不可思議さを示す印象派的な文章に仕上げられている。

「その昔、アーティストは実際に目に見えるもの、つまり、自分が見るのが好きなもの、あるいはすでに目にしたものを表現することを好んだ。今我々は、単に目にみえるものに限らず、現実に関心を寄せている。よって、目に見える領域は宇宙との関係において『特別な場合』に過ぎず、その他の真実の方がより大きな重みを持つという考えを表明しているのだ」

クレーは『創造の信条告白（原題：Creative Credo）』でそのように述べている。本作は、作者が思い描く「ほかの真実」のいくつかを示している。気まぐれで空想的、無意識的で、ぼんやりとした記憶、そして繊細すぎるほどの感性が内面的な経験の滅多にない展望を通して焦点を結ぶ瞬間である。