TANE GARDEN HOUSE by Tsuyoshi Tane
日本人建築家、田根剛の作品集。
スイスの家具メーカー「ヴィトラ(Vitra)」の旗艦店であり、ヴィトラ・ホームコレクションの本拠地、スイス・ドイツの国境の町ヴァイル・アム・ラインの広大な敷地に建つ「ヴィトラ・キャンパス(Vitra Campus)」。そこに建設された「タネ・ガーデン・ハウス(Tane Garden House)」に焦点を当て、ドイツの「ヴィトラ・デザイン・ミュージアム・ギャラリー(Vitra Design Museum Gallery)」で2023年11月から2024年5月まで開催された「Tsuyoshi Tane: The Garden House」展に伴い、本書は刊行された。
「ヴィトラ・キャンパス」に持続可能性を象徴するようなガーデン・ハウスを建てようという提案は、「ヴィトラ」の名誉会長であるロルフ・フェルバウム(Rolf Fehlbaum)が出したものだった。「タネ・ガーデン・ハウス」は、先にガーデンデザイナーのピート・アウドルフ(Piet Oudolf)によって設計された多年生植物を基調とする「アウドルフ・ガーデン(Oudolf Garten)」のすぐ隣に建てられ、近くには篠原一男の「から傘の家」も並んだ。
このガーデンハウスは「ヴィトラ・キャンパス」の訪問客が利用できる屋上展望台と、庭を手入れする庭師のためのミーティングルームで構成されている。本プロジェクトの規模は小さいものの、作者は大きな意義をもつものとしてみなしていた。伝統工芸や地方的なリソースを用いるためにその土地の文脈を調べ、徹底的な研究プロセスをベースにデザインを行う作者のユニークなアプローチにもそれは表れている。まるで考古学者のように作者はリサーチに長い時間をかけることから始め、本プロジェクトが予定された場所の「土地の記憶(memory of the place)」を調べた。作者はこのアプローチを「未来の考古学(Archaeology of the Future)」と呼ぶ。
本書は、幾年にもわたって進められたそのデザインプロセスに深く入り込み、見識をもたらすものである。実現されることのなかったモデルやスケッチも収録し、建築プロジェクトの制作の多くを記録した。ソフトカバーで扱いやすい小ぶりなフォーマットにまとめたこの作品集は、建築に関心のある者を楽しませるだけでなく、未来における建築というテーマにインスピレーションを与える一冊に仕上げられている。