THE GIRL WHO CROSSED THE RIVER WITH A TABLECLOTH by Lara Bongard
オランダ人アーティストであり料理家、作家であるララ・バンガード(Lara Bongard)の作品集。作者は、安息日の始まる日の家族晩餐会にかける白いテーブルクロスをを受け継いだ。このクロスは100年前のものであり、祖先が世界に存在したことを証明する唯一の品である。作者の曽祖父であるモルコ・バンガード(Mordko Bongard)は、1911年にユダヤ人コミュニティ(シュテットル)の川をわたり、二度と戻ることはなかった。彼が住んでいた地域のポグロム(※註)から逃れるため、家族もコミュニティも捨てたのである。
作者は、旧ロシア帝国(現在のウクライナ)に散在する家族の歴史について、広範に及ぶ調査を始めた。家族の足跡をたどり、証言、写真、手紙、記録資料などを集め、中欧、東欧系のユダヤ人が用いてきた言語であるイディッシュ語の物語、神話、シンボルを研究した。このテーブルクロスは、時を超えて家族と食を共にし、東洋と西洋をつなぎ、世代をつなぎ、家族としての文化の多様性を表す、人生のシンボルへと成長していった。
本作は多次元的な作品であり、記憶にまつわるダイナミックな空間でもある。作者の祖先の人生についての架空の物語が、古代ヘブライの太陰暦、旅の物語や記憶、写真やイラストレーションと結びついて描かれている。同時に本プロジェクトは、現代世界における「家にいる」ことの流動的な意味について考察することで、新たなつながりの物語を生み出し、複数の歴史とアイデンティティに対する視点を再構築している。
本作は、アムステルダムの「ユダヤ歴史博物館(Jewish Museum)」にて2023年8月から10月まで開催された展覧会に伴い刊行された。
※註 旧ロシア帝国において、ユダヤ人以外の市民が現地のユダヤ人に対して行う虐殺行為。