NEUTRA VDL by Shio Kusaka
日本人アーティスト、シオ・クサカ(日下翅央 / Shio Kusaka)の作品集。本書は、2020年にカリフォルニア州ロサンゼルス、シルバーレイク地区にあるリチャード・ノイトラ(Richard Neutra)の歴史的建造物「VDLリサーチハウス(V.D.L. Research house)」で開催された展覧会に伴い刊行、展示はキュレーターであるダグラス・フォーグル(Douglas Fogle)とハネケ・スケラート(Hanneke Skerath)によって企画された。
ノイトラの特徴的な建築空間であるロサンゼルスの自宅兼仕事場に作者が呼応し、ミッドセンチュリー・モダンの象徴であるこの住宅を、作者のトレードマークである一風変わったな陶芸作品、小さな動物たちの彫刻、新しい食器類や手作業でデザインしたテキスタイルなどを用い、密やかに飾りつけた。過去20年間の大半をロサンゼルスで制作をしながら過ごし、作者は陶芸の世界と現代美術の世界を巧みに融合し変化を与えてきた。陶芸の不完全性や不規則性を積極的に取り込んだその作品は、控えめながらも軽快な皮肉がきいており、遊びのある柔軟性が表れている。
不規則性に鋭く注目し、手作業による不完全さを取り入れた作者の作品と、心理的かつ環境学的視点から近代建築による心の安らぎを与える効果を説いたノイトラの作品は、すばらしく調和している。2つの違った、しかしどこかで繋がっている手法によって、このアーティストと建築家は、人間性の脆さと、我々の人生に喜びを与えられるモノの力を受け入れ、表現している。飾られた作者の壺や他の作品群は、無口ではあるが、ひっそりとなにかを喋りかけてくるようで、かつて様々なアーティストや建築家、作家、映画制作者や音楽家たちが訪れた全盛期の頃のノイトラ「VDLリサーチハウス」を思わせる。テキストはダグラス・フォーグル、ハネケ・スケラートが寄稿。