NEW IMAGES OF MAN by Alison M. Gingeras
アメリカ人作家、アリソン・M・ジンジェラス(Alison M. Gingeras)のキュレーションにより、2020年にアメリカ・ロサンゼルスの「BLUM & POE」で開催された展覧会「NEW IMAGES OF MAN」に伴い刊行された作品集。アリソン・M・ジンジェラスが編集を手がけ、アーティストであり研究者のアントニナ・グガワ(Antonina Gugała)によるテキストを収録。美術史家でもあるピーター・セルツ(Peter Selz)のキュレーションによりニューヨーク近代美術館で1959年に開催されたグループ展「NEW IMAGES OF MAN」は、悲劇的な結末を迎えた第二次世界大戦を受けて、絵画や彫刻を通じて人間の状態というテーマに取り組み、新しい人道主義的な表現を生み出したアーティストたちを一堂に会したものだった。作者は、この歴史的に重要な展覧会に立ち返り、同じタイトルの下にその内容を復刻・拡大した。オマージュとも抜本的な見直ともいえるこの「ジンジェラス版」では、2フロアに渡って作品を展開。オリジナルの展覧会のラインナップを再編成し、当時は見過ごされていた同時期・同世代のアーティストを追加することによって、外に向かって開かれた展覧会になっている。アメリカや西ヨーロッパだけでなく、キューバ、エジプト、ハイチ、インド、イラン、日本、ポーランド、セネガル、スーダンから43名のアーティストを選出。さらに男性のみの構成だったオリジナル版には含まれていなかった同世代の女性アーティストを加え、ジェンダーバランスを修正している。人道主義の思想を持ったアーティストたちの戦いをより広く捉えるために包括性を取り入れた作者は、「不安な人間の肖像」を集めるというセルツのビジョンをより正確に実現することができた。オリジナル版を礎としたジンジェラス版では、厳選した現代アーティストの作品を加えることによって、戦後の社会的不安が今の時代にも通じることを示している。ここに登場する現役のアーティストたちはいずれも当時の美意識を受け継ぎ反映しながら「人間の現状や苦境を主なテーマとする写象主義者たち」である。1950年代以降、世の中が社会的・政治的に大きく変化したとはいえ、私たちが今再び大きな実存的苦悩と深い集団的不安の時代に突入したことは間違いない。当時も今も変わらず、人間であることの意味に対峙する最前線にいるのはアーティストたちである。だからこそ「NEW IMAGES OF MAN」は、今なお熟考する必要のある挑発的な主題を提示しているといえる。展覧会というものは象徴的・論証的なレベルでしか機能することができないが、改めて感情的・知的な危機感を持って人間の状態について集団的考察を継続していくことが「NEW IMAGES OF MAN」の原動力になっている。参加アーティストの幅を地政学的・世代的に広げたことによって、人間性の包括的な表現が姿を現し、「人」の意味を様々な要素が交差する接点としての存在へと拡大している。