DOUBLE SILENCE by Michaël Borremans, Mark Manders
ベルギー人アーティストのミヒャエル・ボレマンス(Michaël Borremans)、オランダ人アーティストのマーク・マンダース(Mark Manders)の作品集。2020年9月から2021年2月まで金沢21世紀美術館で開催している展覧会『MICHAËL BORREMANS MARK MANDERS: Double Silence』に伴い刊行された図録。実際に会場で展覧されているインスタレーションビューと作品図版、インディペンデント・キュレーターであるマーティン・ゲルマン(Martin Germann)によるエッセイ『飲み込まれたセンテンス マーク・マンダースとミヒャエル・ボレマンスがもたらす遭遇』、金沢21世紀美術館チーフ・キュレーターの黒澤浩美によるエッセイ『ダブル・サイレンス』などを収録。
「ミヒャエル・ボレマンスとマーク・マンダースは、共にヨーロッパが誇る芸術の歴史を素地に、他に類を見ないユニークな表現で世界に知られる美術家です。この度、はじめて、二人だけの作品で空間構成をする二人展『ダブル・サイレンス』を開催します。
20世紀の終わりから加速したグローバル化の波は欧米を出発して様々な地域に押し寄せ、波頭が割れるように各所に影響を与えました。同時に各地域からは様々な事や物や人を吸い上げて大きなうねりとなり現在に至り、今や文字通り世界全体を覆い尽くしています。いわゆる『現代美術』もまた、この流れと軌を共にしています。ベルリンの壁が崩れた後、美術もまた周縁化することで、いかに地域の歴史文化の独自性を持つかが問われてきました。そして30年ほどが経過した今、美術ではグローバル化と周縁化の間で、地域性に起因する文化差異が重要というよりは、そもそも普遍的な価値とは何かについての内省が始まっています。なぜこのような状況が加速しているかは、いくつか考えられますが、情報の高速化によって世界同時性を実現した現代社会では、価値の普遍性の探求は、特定の地域に限らないことに気づき始めたからではないでしょうか。そしてCOVID-19によって、芸術における内省はグローバル化しています。長きにわたり人間の普遍的価値を探求してきたヨーロッパの美術史を踏まえ、ミヒャエル・ボレマンスとマーク・マンダースもまた、同時代を生きる彼らの内省を私たちと共有しています。バロック美術の伝統を受け継ぎ、人間の暗部を描き出すボレマンスの絵画作品。『建物としてのセルフ・ポートレイト』をコンセプトに、身体の断片が印象的なマンダースの彫刻作品。それぞれメディアは違えど、いずれも複雑な心理状態や関係性を深く掘り下げています。
『ダブル・サイレンス』は沈黙や静寂の中で、作品を通して彼ら自身が対話する空間と時間に、ボレマンスとマンダースが人々を誘う展覧会です。英語の「ダブル」という単語には、掛け合わせや足し上げによる二重や二倍といった意味もありますが、『二つ一緒』『明らかに異なる局面』『対を成す』など、実に多彩な意味が含まれます。いずれも一筋縄ではいかないボレマンスとマンダースによる二人展には、実にふさわしい展覧会名です。(略)」
(美術館公式テキストより)