MIGRANT MOTHER, MIGRANT GENDER by Sally Stein
「この写真をマリア様のイコン(聖画像)と厳密に比較してみても、『聖家族』に対し最初に受ける印象とは違い、さほど単純なイメージでもなく、我々が見慣れた聖家族のイメージでもありません。だからこそ、この写真は注目を浴び続けているのだと思います」
アメリカ人フォトグラファー、ドロシア・ラング(Dorothea Lange)の作品に関する考察をまとめた一冊。カリフォルニア大学アーバイン校名誉教授のサリー・スタイン博士による著作。ラングは、イコンを思わせる母親のポートレイトや現代アメリカの家族や社会の価値観を写し出す作品を撮った。スタイン博士は、これまであまり評価されていなかったラングの「Padonna」(スタイン博士の用語でアメリカ人の有色人種の父親を指す)の写真と照らし合わせてこれらの写真を考察し、女性と家庭、そして世界との相容れない関係性を表現した型破りなイメージとして「Migrant Mother」を読み解くことを提案している。スタイン博士は、ドキュメンタリ―のイメージ、ジェンダーポリティクス、我々の認知や信仰、消費者あるいは市民としての行動におけるモノクロとカラーのイメージの位置付けや意味が及ぼす多様な影響力に関連するテーマをしばしば取り上げているが、これは全て相互関係にある。スタイン博士は、ロサンゼルスを拠点とするインディペンデントな研究者として20世紀アメリカの写真およびより広範な文化や社会の問題との関係性について研究・執筆活動を行う。ニューディール政策の一環として行われたFSAプロジェクトに従事した写真家、特にドロシア・ラング、マリオン・ポスト・ウォルコット(Marion Post Wolcott)、ジャック・デラノ(Jack Delano)や、論争の的になったルーズベルト大統領のイメージについての著作がある。また、カラー写真の台頭の様々な側面について継続して研究を行い、その延長として大衆的なマスメディア、特に「Ladies Home Journal」、「LIFE」、「Look」などの雑誌についても多数のエッセイを記す。本書はイギリスの出版社「MACK」が刊行する、文化論者やキュレーター、アーティストが1つのテーマや作品、思考をテキストで掘り下げるシリーズ「DISCOURSE」の1冊として刊行されている。