OMAHA SKETCHBOOK by Gregory Halpern [SPECIAL BOOK EDITION]
国際的写真家集団「マグナム・フォト」正会員であり、2014年にグッゲンハイム奨励金を受けた経歴をもつアメリカ人フォトグラファー、グレゴリー・ハルパーン(Gregory Halpern)の作品集。
「グレゴリー・ハルパーンは、写真家としてのキャリアを通じて『アメリカらしさ』というつかみどころがない、常に揺れ動いている概念を探求してきた。どんな写真家でもこれを表現することはほぼ不可能であり、現在も続く政治的混乱という文脈においては、それ自体が一つの研究分野になっている。 『ハートランド(※註1)』というのもまた漠然とした概念ではあるが、『バイブルベルト(※註2)』と大体一致するようになった。大草原と開拓者の歴史に包みこまれたアメリカの中央部で、ハルパーンはアメリカらしさとは何かを追求し続けてきた。中西部の町オマハで制作された本作において、アメリカは多元化や細分化が進み、ハルパーンによればこの地域だけにまかり通っている『過激な男性らしさ』に満ち満ちた場所として描かれている。写真の中の若者たちを待ち受けているのは、輝かしい未来なのか、それとも何の変哲もないつまらない人生なのか。どこまで行ってもどこにもたどり着けないような広大な土地、果てしない時間の感覚、家族生活の仄暗い一面。アメリカを視覚化しようとしたハルパーンは、複雑な意味を持つイメージを作り出した。ハルパーンの描いたアメリカを見つめ直すことによって、私たちはこの国について深く知ることができる。」
– アマンダ・マドックス(J. Paul Getty Museum)
この15年間、作者はネブラスカ州オマハで写真を撮り、アメリカの心臓部(ハートランド)に対して感じたことを、幾つもの解釈が可能であり重層的な意味が込められた叙情的なイメージとして表現してきた。2009年に画用紙のスケッチブックで作られた作品集を再現した本書では、各ページにコンタクトプリントがラフなコラージュでレイアウトされている。この土地を嫌悪しながらも惹かれてならないという、アンビバレントな感情が透けて見えるイメージからは、作者が不協和や思いがけない調和を楽しんでいることが伝わってくる。本作は、アメリカとそこに暮らす男性や少年、そしてその攻撃性、不完全さ、パワーの構造について省察した一冊である
註1 アメリカ合衆国中西部 (Midwest) 。地理的要因に加え、歴史や価値観、製造業と農業分野で主要な役割を負い、大きな商業都市や小さな町が寄せ集まっていることからそう呼ばれる。
註2 キリスト教篤信地帯。特にアメリカ合衆国中西部から南東部にかけて複数の州にまたがる地域であり、聖書を字義どおり熱心に信仰する正統派キリスト教徒の優勢な地域。