LUMINANCE OF STREET / 街の火 by Haruto Hoshi [SIGNED]
日本人写真家、星玄人による初作品集。
夜の街を徘徊するのが好きだったのはカメラを手に持つようになるよりもずっと前からでたぶん小学校高学年位からだったと思います。その当時私は勉強には打ち込むことができずテレビもあまり好きではなかったので、放課後有り余った時間の大半をマンガを読んだりラジオや歌を聞いたりして過したのですが、結局そういう事にそれほど夢中になることも出来ず教室の片隅や自室でひとり、架空の日常を夢想することにいつも明け暮れていました。頭に思い浮かべるのは身近な友人や異性を登場させ、自分に都合良く作られたおよそ実現性には乏しい幼稚な戯言がほとんどで、とりわけ得意なことなど無いくせに周囲にあわせるのが嫌いだった私は情欲と自己愛だけで構成された虚構の世界を構築することで自身を取り巻く現実から逃避したかったのだと思います。今振り返るとその無意味な想像性を創作などに転化させれば良かったのですが、自意識過剰な性格が現実から得る雑多な情報に対して身構えさせていたせいか、思春期の過剰な自我の目覚めを自己認識する事も無く、猥褻な衝動に身を任せる以外は何一つ思い通りにいかない他人と自分との関係に対する不満と、誰からも必要とされないだろうという不安感がいつも私の思考を支配していました。思い返すと単に成長期で欲求不満だっただけなのですが当時の私には深刻な問題で、豊かな現実世界は私にとって屈折や劣等感を呼び寄せる為にしか存在していなかったように思います。そんな私が実生活で唯一開放された気分になれたのは日が暮れてからの街並を用も無く歩きまわっている時でした。普段見慣れた忙しい景色に冷たい開放感が混ざりだしたような夜の空気は昼間よりも透明な輪郭で街を映し出し、自身の妄想世界よりも強く私の幼い欲望と好奇心を掻き立てていました。 (...)
- 星 玄人
インタビュー:「ヤクザ、女装、歌舞伎町…。 星玄人が描き撮る〈人間の血〉と〈街の血気〉」(VICE Japan)