彼岸 / HIGAN by Nobuyoshi Araki
日本人写真家、荒木経惟の作品集。2011年にラットホールギャラリーで開催された展覧会「彼岸」に伴い刊行された。
以下プレスリリースより抜粋
ラットホールギャラリーは2011年7月22日(金)より9月25日(日)まで、荒木経惟展「彼岸」を開催いたします。当ギャラリーで6回目の個展となる本展では、東京の街をタクシーの窓越しに撮影したモノクロ作品、東北地方太平洋沖地震直後に撮影されたカラー作品、花を怪獣のフィギュアとともに撮影した作品「楽園」など、約450点の最新作を展示いたします。
壁面にグリッド状に展開される約400点のキャビネ判の写真は、荒木が前立腺癌の治療を受けながら、記録的猛暑となった2010年夏の東京をタクシーの窓越しに撮影したものです。これまでも荒木は、「クルマド」シリーズとして同様の撮影を長年続けてきましたが、本展の写真は200mm望遠レンズで撮影されており、街の日常的な光景に「喪失感」を重ねながら、彼岸を見つめるかのように、あるいは彼岸から見つめるかのように、荒木は様々な人々の姿かたちにレンズを向けています。
震災後に撮影され始めた作品が約40点、そして「楽園」シリーズの大型プリントは10点展示されます。「現世そのものが彼岸。つまり、写真のすべてが彼岸なんだ」と、3月11日以来しきりに口にする荒木にとって、両作品は大地震以降の自らの写真のあり方を示すものとなっています。色鮮やかで情熱的な花と自宅のバルコニーに住む怪獣のフィギュアや人形が登場する作品には、「彼岸の中にも楽園がある」と語る荒木ならではの生死観の現れを見てとることもできるでしょう。
本展の写真はすべて、長年連れ添った愛猫チロが死を迎えた昨春以降に撮影されており、それぞれの写真には、失ったとき時間に対する荒木のさまざまな想いが染みわたっています。つねに「生の中の死」を敏感に感じとりながらも、生の喜びやノスタルジーを写真に見出そうとする荒木経惟が本展で物語ろうとしているのは、センチメンタルな「彼岸」の世界だと言えるでしょう。