1960s: DARKNESS AND LIGHT by Louise Fishman
アメリカ人アーティスト、ルイーズ・フィッシュマン(Louise Fishman)の作品集。本書は、2022年にニューヨークのギャラリー「KARMA」にて開催された展覧会に伴い刊行された。作者にとって「KARMA」では2度目の個展である本展では、初期の抽象画への取り組みに焦点を当て、形成期であった学生時代の1960年代に制作された未公開作品9点を紹介している。
動作を利用したマークメイキングと、雰囲気に富む空間の使い方で広く知られる作者は、1961年に初めて制作した抽象画を皮切りに、非具象的な表現へと惹かれていく。「抽象表現主義の作品は、クィアである自分にとってふさわしい言語に感じた。それは、ラディカルな周縁における秘められた言語であり、周囲から隔てられた状態が持つ独特の言語でもある」と語る。
このキャリア初期において、作者の芸術界における女性としてのアイデンティティは、プロの画家として活躍した母親と叔母という身近な存在に影響を受けている。作者はその頃を振り返り、「特定のスタイルよりも、彼女たちが示す絵画に対する決意、そして愛情にこそ、最も影響を受けた」と書き記している。本展で紹介されているのは、作者がアーティストとしての自己について学び、その後のキャリアでも直面するプロとしての期待や制限を初めて経験した形成期に制作された作品群である。認識ができる形の世界から離れ、黒やバーガンディで構図全体を覆うような表現を用い、より抽象的な要素に焦点を当てている。またこれらの初期作品は、アカデミックな環境における絵画の規範に対する反抗であり、作者がキャリアを通して持ち続けるエネルギーを含有するものでもある。それはすなわち、女性として、同性愛者として、フェミニストとして、また生涯にわたって絵画を学び続ける者としてのアイデンティティがもたらす、古い慣習への決別である。
本書は、「ロチェスター大学(University of Rochester)」で准教授を務める美術史家、批評家のレイチェル・ハイドゥ(Rachel Haidu)、アメリカ人アーティストのアーチー・ランド(Archie Rand)、アメリカ人美術評論家、作家、詩人のカーター・ラトクリフ(Carter Ratcliff)による書き下ろしのエッセイを収録。