ANAMNESIS by Aliki Christoforou
ブリュッセルとパリを拠点に活動するギリシャ人アーティスト、アリキ・クリストフォロウ(Aliki Christoforou)の作品集。2017年12月29日に激しい交通事故に遭った作者が、長い入院生活の中で撮り溜めた一連のモノクロ写真をまとめた1冊。
「
フィルムを現像してみると、驚いたことに、写真に写っている多くの瞬間がまったく思い出せないのです。私からかけ離れていて曖昧で、私の記憶から完全に消し去られていた。本当にこの発見にはぞっとしました。このブラックアウトの原因は何なのでしょうか?頭の傷か、薬のせいなのか。病院で過ごしたあの長い日々は何だったのでしょう。
ロラン・バルトの『それが、かつて、あった( Ça-a-été)』でも知られているように、写真の指標価値に関しては多く語られています。この写真を通じて明らかになったことは、確かに起こっていた出来事ではあるけれど、私の中での現実に対する認識と一致しないということです。あの不確かな期間の難解な記憶をこの写真ではっきりさせるために、ベールに包まれて不透明でミステリアスな雲の中にいる私の存在を、暗室で現像しました。私の記憶の欠落と、今自分がおかれている奇妙なパラドックス、そして事件を無視したいという強い気持ちと同時に記憶しなければならない気持ちを写し出しているのです。
アリストテレスは、記憶について2つの言葉を使いました。一つは『受動的記憶』を意味する『ムネーメ(mneme)』[μνήμη] 。自分の人生の中での知覚している瞬間の単純な保存です。もう一つは『能動的記憶』あるいは『想起』を意味する『アナムネーシス( anámnesis)』[ἀνάμνησις] 、つまり自分の前世から抽出した記憶を探索することです。何が言いたいかというと、ムネーメは精神と結びついていて、アナムネーシスは魂に由来している。忘却の彼方から記憶を問うのです。
」