I LEFT MY GRANDMOTHER’S HOUSE by Victoria Hely-Hutchinson [FIRST EDITION]

イギリス人フォトグラファー、ヴィクトリア・ヘリー=ハッチンソン(Victoria Hely-Hutchinson)の作品集。序文は作者自身によるもの。

作者はオーストリアにいる自身の親戚に視線を向け、耳を傾け、家族の伝承の断片と鋭敏に観察された写真を融合させている。現存の階級社会に対する整然とした批評を提示するでもなく、ブロケード地のカーテンに手をくぐらせながら思わず声を出してしまうような装飾品への軽率な称賛を述べるわけでもない。その代わりに、具体性を喪失した家族的主観性を淡々と伝えているのだ。歴史へ問いかけたところで、返ってきた答えは控えめに肩をすくめるぐらいのものだ。

本プロジェクトの根幹は作者の威風堂々たるカリスマ性(それともカリスマ的な威風堂々たる姿勢なのか?)を持つ祖母が夕食の場で語るダーク・コメディー的なエピソードにある。その祖母はオーストリア・ハンガリー帝国の伯爵夫人で、16歳の時に家に来ていた(のちに、グランパ・ヒューと呼ばれる)イギリス人留学生と家出をし、今では南フランスの保養地フレンチ・リヴィエラで悠々自適に暮らしている。その姿は、作者のドキュメンタリー「Vacances」で素晴らしく繊細に捉えられている。祖母の名のもとに閉ざされた門を開くため、作者はオーストリアに向かい、夕食の席を得た。

それぞれの物語それ自体がそうであるように、作者の写真の多くは答えがなく、時にはなぞなぞのようであり、また時には詩のようでもある。家の中に放たれているコウモリはシンボルなのか?「bats in the belfry(頭の中にたくさんのコウモリが飛びかっている)」のようなエキセントリックさを意味する古いことわざへの賛同なのか?要塞化されたスペースへ侵入してくる外界の視覚表現なのか?これらの写真には、特異性とメタファーがぶつかり合うにもかからわらず、「すみません、失礼します」の一言もないのである。

by Victoria Hely-Hutchinson

REGULAR PRICE ¥7,480  (tax incl.)

hardcover
68 pages
230 x 290 mm
color, black and white
limited edition of 700 copies
2023

FIRST EDITION

published by LIBRARYMAN