HASSELBLAD AWARD 2016 by Stan Douglas
2016年のハッセルブラッド・アワードを受賞したカナダ人アーティスト、スタン・ダグラス(Stan Douglas)による「Night」(2014-15)、「Corrupt Files」(2013)、「DCTs」(2016)の3つの作品シリーズで構成された作品集。ネオ・ミザンセーヌとも呼ぶべく「Night」では、バンクーバー市内を横切る高架橋の夜景が収められる。その高架道路の真下に位置するストラスコーナという地域では、70年代前半に興った高速道路の建設計画による立ち退きを余儀なくされるまで、半世紀以上にもわたり、貧困層であったアフリカ系カナダ人のコミュニティが存在していた。続くイメージでは、コミュニティが存在していた頃の界隈の景色が3Dモデリングソフトによって再構築されたものを収録。ドローンの視点から視た、家屋の屋根や暗闇に浮かぶ窓の灯りはまぎれもなく人の住む空間として写されるが、その風景に生身の人の姿は見当たらない。本作では、現実と仮想、記憶の境界をあいまいにしながら、歴史の影の部分として多くを語られることがなかった人々の記憶を具体的な形に落とし込む。あらゆる色が無数に連なる縞模様で画面を構成する「Corrupted Files」は、作家の前作である「Disco Angola」や「Midcentury Studio」の製作過程で壊れてしまったデータの蓄積である。その損傷(Corrupted)によって、元々データに記録されていたイメージとは無関係の抽象表現が立ち広がる。 データの損傷により自然発生的に生まれた「Corrupted Files」に対し「DCTs」では、JPEG形式のエンコーディングを反転させる専用のソフトウェアを制作し、写真を撮るという行為に代わりプログラミングコードを「書く」ことでイメージを作り出している。「Night」シリーズがもつナレーショナルな側面や「Corrupted Files」、「DCTs」シリーズによる抽象表現など、本作はメディアとしての写真のあらゆる可能性を探る一方で、それぞれのシリーズでコンピュータ・ソフトウェアを駆使しながら人間と機械の記憶 / 記録の関係性を紐解くことを試みている。MoMA写真部門のシニア・キュレーターを勤めるRoxana Marcociと作者による対談の他、コロンビア大学准教授のNoam M. Elcottによる解説を収録。