THE CANARY AND THE HAMMER by Lisa Barnard
イギリス人アーティスト、リサ・バーナード(Lisa Barnard)の作品集。4年もの月日を費やし4つの大陸で撮影した写真が収められている。人間が抱く金(Gold)に対する畏敬の念と、無慈悲なまでに進歩を追求してきた人類の歴史の中で金が果たしてきた役割が詳細に描かれている。イメージとテキストに記録資料を組み合わせることによって、作者は金をめぐる争いの歴史、そして金と世界経済との複雑な関係性についての興味深い洞察を示した。金は現代生活のいたるところに存在する。古代文明の時代から富、美しさ、純粋さ、欲、そして政治権力の強力なシンボルであり続け、現在我々が使っている最新のテクノロジーのほとんど全てにとって必要不可欠な素材だが、その存在は内側に隠されている。本書を通じて作者は、ゴールドラッシュの狂気から現代の採鉱現場の悲惨さ、産金業界の性的な力関係、そしてハイテク産業の心臓部で金が果たしているほとんど知られていないが欠くことのできない役割まで、一見関係が無いように見えるバラバラのストーリーの間の繋がりを見出すことを試みた。2008年の金融恐慌は、グローバル化が進む世界において、西欧諸国がいかに貪欲に富の集積を追求し続けているかをまざまざと見せつけた。これに刺激を受けた作者は、ハイテク産業が産み出す巨額の資金が目には見えない新しい形で存在している現代においても、依然として金が保持している経済のバロメーターとしての位置づけに疑問を投げかけた。これを写真によって行うことによって、作者は自らの選んだ写真という表現媒体が、このような抽象的な出来事や概念に対してどのような回答を導き出すことができるのかという問題を提起した。その結果誕生したこの野心的なプロジェクトは、細分化が進み、様々な問題が山積みになっているこの時代に本質的な表現をすることの複雑さに向き合った、プライベートな旅のスケッチとなっている。