パキスタン系イギリス人フォトグラファー、マタブ・ハサン（Mahtab Hussain）の作品集。本書は、現代のイギリスにおける労働者階級の中で生きる南アジア人ムスリム（イスラム教徒）青年たちを9年間に渡り撮影したものを収録。本シリーズの大部分をポートレイトが占めているが、被写体となった男性たちが生活する地域のドキュメンタリーでもあり、各々の文化が持つ固有性の一端を垣間見ることができる。また作者は主にロンドン、ノッティンガム、バーミンガムでムスリムの青年たちとの数多の対話を記録。読み手の心を揺さぶるほどの内容が写真とともに編み込まれている。自尊心や男性らしさ、社会的アイデンティティ、宗教、移住にまつわる問題を浮き彫りにして、メディアの固定観念や侮蔑的な描写に抵抗する彼らが自ら語る具体的な実体験と向き合っている。イギリスにおける移民や個人を取り囲む政策の問題にこのような形で立ち向かい表現する作者は、自分が何者なのかを見つけようと青年たちがもがいていることを理解しうる「影なる仲介者」とも言えるだろう。

記事：イギリスに生きるムスリムの葛藤（Newsweek Japan）