ロンドンを拠点に活動するスイス人アーティスト、マティス・ガッサー（Mathis Gasser）の作品集。各ページに不気味な空気を纏って直立する人物が配置された本書はすべて、ハリウッドの大作映画、パルプ・ホラー、SF、漫画、コミックなどのポップカルチャーから、秘伝的なものや芸術作品まで、さまざまなメディアから借用されたファウンドフォトを油絵によって再構築した作品で構成されている。架空のキャラクターたちによる人類学的絵画図鑑とも言える一冊である。各キャラクターは物語の中で社会秩序における暴力、抵抗、混沌の力を体現し、現代の自由民主主義が抱える抑圧された恐怖や不安を掘り起こし、それらを明るみに出す役割を担っているのだが、作者は人物を物語やメディアの文脈から切り離しキャンバスに移すことで、キャラクターの行動における点と点を結び、その本質を見極めることを鑑賞者に促している。