ドイツ人フォトグラファー、ヨヘン・レンペルト（Jochen Lempert）の作品集。2018年3月から7月にかけてイタリア、フィオラーノに建つ「MUTINA」社の新社屋「Mutina Headquarters」で開催した展覧会に伴い刊行された。

イタリアのタイルブランド「ムティーナ（MUTINA）」は、「タイルはアートである」というビジョンのもと、デザイナーや建築家、イラストレーター、アーティストと協働し、タイルの世界に新たな風を吹き込んできた。自社ショールーム兼展示スペースであるミラノの「Casa Mutina」では、企業活動の一環として、現代アーティストの作品とタイルをコラボレートした展覧会を行い、現代美術への支援も積極的に行う。本「MUT Books」は、「Mutina for Art」と名付けられた展覧会プロジェクトに付随する書籍シリーズであり、全て同じ小ぶりなフォーマットとクロス製本のハードカバーで綴じられている。作品や展覧会風景に加え、キュレーターによるエッセイや考察、アーティストへのインタビューが収録されている。

本展は2017年に「This Is Not a Prize #2」を受賞した作者への敬意を表して開催されたものであり、「The Two Poems, Seven Pairs」のプロジェクトは、作者がイタリアで実現した中では最も大規模なものである。

生物学者として、また実験映像作家としての経歴を持ち、多岐にわたる作品を生み出してきた写真家である作者は、自然の中を歩き、都市を渡り、シンプルな樹木や複雑な植物微生物、剥製にされた動物、昆虫の群れ、空に形を描く鳥の群れ、葉のさまざまな質感とそれを透かす光、砂の中の石、さらには人間の細部や都市の文脈では通常見えない生命の形態に焦点を当てる、いわば探検家である。作者の制作においては、一方では偶然性に基づき、またもう一方では注意深く作品を構築することもある。暗室で有機的な素材を感光したり、ネガに直接置くことによって作られる、ほぼ抽象的とも言えるフォトグラムのような、カメラを使わない写真で被写体を捉えることもある。

作者の写真は、徹底的にアナログであり、モノクロである。その物質性を引き出すような正確さをもって自らイメージを現像し、額を使わず、展示スペースの壁面に対し自由に接するように写真を並べるという選択によって、その性質はより高められている。作者が根本としていることは、特定の作品を並置することで生まれる関係性であり、そこでは構成的かつ形式的な厳密さが、象徴的、もしくは何かを想起させるように連なった力と組み合わされている。

本展のタイトルである「Two Poems, Seven Pairs」は、類似したイメージと異なったイメージとの間に生まれる、ほぼ音楽的とも言える対話を仄めかしている。人間、動物、植物、風景、大気現象、エネルギーの間に、相反するもの、対称性、そして繋がりが浮かび上がってくる。作品全体を生み出すものは、構図のリズムである。ポジとネガ、被写体と背景、形と比喩、線と空間の間に無限のつながりが生まれる。完璧にコントロールされたグレーの色調は、紙に木炭でトレースした優美なドローイングにも似た写真をしばしば作り出している。

作者は、科学的なアプローチと詩的な表現力を兼ね備えている。一方では、被写体を探り、収集し、カタログ化し、整理しながらも、他方では、その叙情的で形式的な側面をしっかりと掴んでいる。作者がイメージを捉える視点は、人間中心主義的な世界観を否定するものであるが、人類への敬意とともに自然を理想化しようとするものではない。作品では、動物、植物、生物、人間、そしてその活動を同じレベルに置きながら、相互に影響を与え合いながら進化していく「共進化」の名の下に、空間、時間、ヒエラルキーは意味のないものとなっていくのである。

作者にとって、本展はイタリアの非営利スペースで開催される初めての個展であり、その展覧会に付随して作られた本書は、科学的アプローチと詩的な表現が見事に調和したイメージを紹介している。キュレーターのサラ・コズリッチ（Sarah Cosulich）による序文も掲載。

The catalogue of Two Poems, Some Pairs, the first solo show by photographer Jochen Lempert in Italy, presents a selection of images that express the harmony with which the artist combines a scientific approach with a strongly poetic language. It features a preface written by curator Sarah Cosulich.