MUT 4 | BRIC by Nathalie Du Pasquier
イタリアを拠点として活動するフランス人アーティスト、ナタリー・ドゥ・パスキエ(Nathalie du Pasquier)の作品集。2019年9月から2020年10月にかけてイタリア、フィオラーノに建つ「MUTINA」社の新社屋「Mutina Headquarters」で開催した展覧会に伴い刊行された。
イタリアのタイルブランド「ムティーナ(MUTINA)」は、「タイルはアートである」というビジョンのもと、デザイナーや建築家、イラストレーター、アーティストと協働し、タイルの世界に新たな風を吹き込んできた。自社ショールーム兼展示スペースであるミラノの「Casa Mutina」では、企業活動の一環として、現代アーティストの作品とタイルをコラボレートした展覧会を行い、現代美術への支援も積極的に行う。本「MUT Books」は、「Mutina for Art」と名付けられた展覧会プロジェクトに付随する書籍シリーズであり、全て同じ小ぶりなフォーマットとクロス製本のハードカバーで綴じられている。作品や展覧会風景に加え、キュレーターによるエッセイや考察、アーティストへのインタビューが収録されている。
建築家、インダストリアルデザイナーであるアンジェロ・マンジェロッティ(Angelo Mangiarotti)が手がけた「ムティーナ」本社屋の中に、7つの彫刻的なパーツからなる大がかりなインスタレーションを作者は想像した。 形も大きさも異なる7つの構造物が並ぶことで、彫刻と建築、巨大なチェスの「ポーン」の駒と小さな塔との間に思いがけない風景が生まれるのである。
ミニマル、経済的、反復的、リズミカル、様々な形態に対して広く適応できる原型的な構成要素として在るレンガ。本展「BRIC」は、そんなレンガから着想を得た。レンガはつながりの象徴であると同時に、その個性において完璧な建築作品でもある。
レンガに魅せられてきた作家は、釉薬で鮮やかな色に仕上げられた様々な種類のレンガの向きを変え、展示スペースに並べられた大きな彫刻の空間の中に重ねていった。重ねたレンガの隙間から内部構造が見えることで、繊細な視点と、ソリッド(固体)とヴォイド(空・無)の間に生じる建築的なコントラストが生きており、釉薬の鮮やかな色によってより強調されている。
向きを変えられたレンガは構造的な美しさを失い、「ムティーナ」のセラミック・タイルが持つ視覚的なメカニズムを反映した模様による装飾的なモデュールとなる。
作者は、アートとデザインをひとつの流動的な言語の中で交わらせ、本能的でありながら形而上学的な風景へと我々を誘う。 絵画、彫刻、インスタレーションにまで及ぶその多彩な作品は、構図やディスプレイのテクニックを突き詰めることで、主題と空間との関係を探っているのである。 本展の構成は、我々をその基本単位であるレンガに立ち返らせ、光と影と構造の織り成す間にある、徹底的にこだわり尽くされたリズミカルな使い方から生まれる「詩」へと我々を導く。そこには、作者と「ムティーナ」が交わす、これまでにない対話が存在する。
本書には、展覧会の企画に伴い実現したサイトスペシフィックなインスタレーションの風景と、作者によるドローイングから抜粋したものを収録。建築史家のアンドリュー・エアーズ(Andrew Ayers)とキュレーターのサラ・コズリッチ(Sarah Cosulich)によるテキスト、あわせて作者との対談も掲載されている。
Entirely conceived by Nathalie Du Pasquier, the catalogue of BRIC exhibition collects images of the site specific installation realised for MUT and a selection of drawings by the artist. It features texts by architectural historian Andrew Ayers and by Sarah Cosulich, including a conversation with the artist.