43–35 10TH STREET by Daniel Shea [SIGNED]
アメリカ人フォトグラファー、ダニエル・シェア(Daniel Shea)の作品集。作者は、新自由主義(ネオリベラリズム)の影響下において自身が何をすべきかはっきりと認識している。かつて工業都市であったロングアイランドシティは、強欲さを感じるほど急速に不動産開発を進めていた。このようなタイプの急発展は世界中で起きており、明らかに遅れた住居不足問題を解決すべく取られた資本主義的な打開策に過ぎなかった。その街の開発における移り変わりを作者は記録し、構築されたコミュニティーの末端から都市の中心部までを描き出す。一冊の本の中で作者は、自身が住むロングアイランドシティを写した記録に加え、モダニズムを象徴する計画都市ブラジリアの政府庁舎、アメリカ西部の国勢調査指定地域として作られた不毛の地サールズ・バレーのイメージを並置。対比的に見せるページもあればあえて重ねあわせる場面も作る。どの写真がどの場所のものかは時に特定し難いが、観ていくうちにそれぞれのイメージが醸し出す印象は確実に積み重なって混ざり合い、共鳴する。作者は建造物の表面や形、デザインに目を向け、その美しさに喜びを感じながらも、同時にモダニズムの野心と失敗が合わさって形成された何かに気づく。自分自身と過剰なまでに向き合い、周囲に広がる世界を記録し形にすることで写真家としての立場に挑む姿は、一種のフェティシズムにも見える。その表層には様々な意味が満ち、時が経つにつれ紐解かれていく。アメリカ人作家ウォルター・ベン・マイケルズ(Walter Benn Michaels)が本書にエッセイを添え、作者の作品が成す層を分解し、その層と層の間に挟まれて存在し表面上はニュートラルに見える下で淀む政治的テーマを明確に示す。本シリーズ作を発表した展覧会が評価され、世界で活躍する35歳以下の現代写真家から選出される「Foam Paul Huf Award」(Foam写真美術館主催)を2018年に受賞。
記事:ダニエル・シェアインタヴュー
大都市の表層が持つ一瞬の美しさとアイロニー(IMA ONLINE)