DARKNESS GOLDNESS by Georg Baselitz
ドイツ人アーティスト、ゲオルグ・バゼリッツ(Georg Baselitz)の作品集。2020年にロンドンのギャラリー「White Cube」での個展開催に伴い刊行された。2019年に制作された絵画、レリーフ、紙を用いた作品群を一挙に見ることができる。このシリーズを通じてバゼリッツは「手」というモチーフについて深く思索し、3つの異なる表現媒体を使って最も単純な形にまで昇華した。画家としてのキャリアの始めから、作者は手の表現力に注目してきた。1960年代に制作された代表作「Heroes」シリーズでは、「怪物のような」手を持つ人物を中心とした構図をよく描いており、ドイツ新即物主義の画家、オットー・ディクス(Otto Dix)が両親を描いた、異常に大きな手と腕の身振りが特徴的なシリーズにも長年影響を受けてきた。
鮮烈な印象を与える「Darkness Goldness」シリーズでは、手は体から切り離されている。金色の絵の具で描かれた開いた手の平は力なく垂れ下がり、暗い背景から浮かび上がってくる。感情を表す強力な手段としての「手」をモチーフにしたアーティストたちの長い系譜に連なった作者は、モノプリントの技法を使ってイメージをキャンバスからキャンバスに移し取ることによって、自らの熟練した技術を隠しているように見える。それと同時に、紙にインクで描いたドローイングでは、鍛え上げられた職人を思わせる優れた技巧を示している。これとは対照的に、至る所にアーティスト自身の手が入っていることを感じさせるレリーフは、この手が精魂込めて手作業で作られたことを証明している。
長年ガーディアン紙で美術評論を書き綴ってきたイギリスの美術評論家、作家、放送作家であるジョナサン・ジョーンズ(Jonathan Jones)のテキストは、デューラー(Dürer)からキルシュナー(Kirschner)まで、美術史に名を刻んだアーティストとの対比で作者を論じている。イギリスのユング派精神分析医であるダリアン・リーダー(Darian Leader)は、子供から大人への成長過程において手が果たす役割をテーマに、手が連想させるイメージや意味を掘り下げた。また、作者とWhite Cubeの外部プロジェクトディレクターのトビー・カンプス(Toby Kamps)との対談では、アーティスト自身の思考プロセスが明らかにする。