コロンビア出身アーティスト、ドリス・サルセド（Doris Salcedo）の作品集。2023年5月から9月にかけてバーゼルの「バイエラー財団美術館（Fondation Beyeler）」で開催された展覧会に伴い刊行された。本展は、作者にとってスイス国内初の大規模個展であり、キャリアのさまざまな時期から8つの主要なシリーズが展覧された。

国際的に評価が高いその作品群は、暴力と喪失の経験を具現化している。作者の関心は、共感や悲しみといった異文化間の感情や感覚、そして暴力的紛争という文脈の中で繰り返される忘却と記憶の周期を対処することにある。作者の彫刻やインスタレーションは、具体的な出来事を題材にしたものが多いが、悲しみや疎外感、故郷を失った喪失感といった感情は、普遍的に受け入れられるものであり、心に響く表現となっている。石やコンクリート、木製の家具、草、花びら、髪の毛、衣服など、さまざまな素材が変容され、そこに意味が込められる。個人の痛みや集団の悲しみがこれほど感動的な形で表現されたり、社会的な克服がこれほど力強く定式的なものとなることはめったにない。本書は、1986年から2022年までの作品を網羅し、作者との緊密な共同作業によって制作された一冊。