FROM "BLAUE HORSE" TILL NOW DAYS 1965-2022 by Boris Mikhailov
ウクライナ人フォトグラファー、ボリス・ミハイロフ(Boris Mikhailov)の作品集。パリの「ヨーロッパ写真美術館(MEP)」で開催された大規模回顧展に伴い刊行された本書は、過去57年に渡って制作されてきた作者のプロジェクトが収録されており、その活動を回顧する最も重要な一冊である。
東ヨーロッパで最も影響力を持つ現代アーティストの一人である作者は、50年以上かけて社会的、政治的なテーマを探求し、実験的な写真作品を生み出してきた。作者の先駆的ともいえる作品は、ドキュメンタリー写真からコンセプチュアル作品、絵画、パフォーマンスにまで及ぶ。1960年代より、旧ソビエト連邦の崩壊やそれが引き起こした甚大な弊害など、ウクライナが経験した激動の変化を記憶に刻みつけるような記録として描いてきた。
カテゴリー化を拒むような素晴らしく深淵な作品群を通して、作者は既存の視覚コードを不安定なものと化させる。技術、構成、手法がそれぞれ全く異なる数々のシリーズの中で、作者特有の表現言語を考案し、作者が生きる時代における厳しい社会の現実と不条理を、作品をもって証言している。
ユーモアと悲劇を組み合わせることで、作者は一つの抵抗として、絶えず表現の自由の庇護をする。物議を醸すほどのテーマを強硬に扱い、アートの破壊力を示している。作者は祖国における旧ソ連の社会システムの支配力を半世紀以上もの間目撃してきた上で、ウクライナの現代史に基づいた複雑で力強い写真的ナラティブを構築してきた。時局を鑑み、これらはまさに強烈で啓発的とも言える。
作者と妻のヴィタ・ミハイロフ(Vita Mikhailov)によるコラボレーションによってデザイン、編集された本書は、作者の技法と哲学を物語るべく、各プロジェクトにまつわるユニークな見識を掲載。付属の小冊子には、「ヨーロッパ写真美術館」館長のサイモン・ベイカー(Simon Baker)、先述した展覧会のキュレーター、ローリー・ハーウィッツ(Laurie Hurwitz)、そして作者の親しい友人でもあるアーティスト、リー・レーダレ(Leigh Ledare)が寄稿したテキストを収録。作品シリーズ「Viscidity」と「Unfinished Dissertation」の翻訳も掲載する。