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アメリカ人アーティスト、バーバラ・T・スミス（Barbara T. Smith）の作品集。1976年に展開された、世にあまり知られていない先見的なパフォーマンスの記録である。

本パフォーマンスは、画家のフランシスコ・デ・ゴヤ（Francisco Goya）による油彩作品「裸のマハ（Naked Maja）」（1795-1800年）、「着衣のマハ（The Clothed Maja）」（1800 –1807年）を用いている。二つの作品のかたわらで、初期のチャットボットの二つとして今では知られている、二種の精神分析コンピューター・プログラム間においてリアルタイムで交わされた会話を記録しており、作者は一人の女性モデルの上にこの有名な絵画作品の画像を投影した。本書には、この二つのプログラムがやりとりした「会話」の全記録、パフォーマンスを行なった時のドキュメントやエフェメラ、作者が開催した夜を振り返る考察テキスト、そして学者でありアーティストのマシンカ・フィルンツ・ハコピア（Mashinka Firunts Hakopian）による後書きが収録されている。

本作は、「カリフォルニア工科大学（California Institute of Technology / Caltech）」で開催された「The Many Arts and Sciences」展の一部である。作者は単に新たなテクノロジーを称賛するのではなく、「コンピューターは男性の催眠状態の新たな一例に過ぎない」という「作り付けられた問題」の一つであると作者が見なしたことへの挑戦も試みた。コンピューター科学者であるディック・ルービンシュタイン（Dick Rubinstein）と協働し、作者は「カリフォルニア工科大学」と「マサチューセッツ工科大学（Massachusetts Institute of Technology）」のコンピューター・サイエンス・チームに参加した。代理セラピストとして設計された「DOCTOR」という名のプログラムと、妄想型統合失調症患者を模倣するように訓練された「PARRY」という名のプログラムとの間で会話を実行させるためであった。

コンピューター操作係が隣の部屋で作業をする間、会話を記録している新たなページがそれぞれ壁に投影され、「裸のマハ」に扮したモデルがテキストの下にもたれかかり、同じ絵画のヌード版である「着衣のマハ」のスライドがモデルの上に映し出されていた。鑑賞者は配信されている会話に没頭し、見入っていた。このパフォーマンスは2時間近く続いたが、やがてモデルは操作係に無視された（見捨てられた）ことに激怒し、押し入って誘惑をしようとした。その直後、ギャラリーのディレクターは、他の展示作品から観客の気を長く反らしすぎていると判断し、イベント全体のプラグを抜いた。

今この作品に再び光を当てることは、新しいテクノロジーにアートが介入する時に持ちうる芸術的かつ真に自由である可能性を目撃することである。モデルが進行から孤立していったオリジナルのパフォーマンスのように、次第に浮かび上がってくるのは、こうした新しいテクノロジーがもたらす利害である。今日における男性優位の技術分野とAIの背景に対し、当時最新のテクノロジー、今作の場合はチャットボットを用いた作者のこの初期作品は、予言的であり、今のコンピューター計算を用いた状況における機械が生んだジェンダー的、人種的な偏見をめぐる現代の会話をまるで示唆しているかのようである。作者は、同世代の多くの女性たちと同様、1960年代から1970年代の間における芸術とテクノロジーに関する重要な調査がなされた際に見過ごされてきたが、そのキャリアの中で、ジェンダー・ダイナミクスや、コミュニティ、そして自己を問うために新たな技術を用い、鋭く探っていた。自身のダイニングルームにあった、普通紙にコピーができる世界初の完全自動複写機「ゼロックス914（Xerox 914）」を使って制作された『Coffin books』（1966-1967年）から、3,000個のコンピューター生成で作られた一つ一つ異なる雪の結晶で小さなスコールを作った『Outside Chance』（1975年 / ラスベガス）や、グラスファイバーで作られた森のサウンドスケープを参加者の動きによって変容させるインタラクティブな作品『Field Piece』（1971年）といったパフォーマンスまで、どの作品においても芸術とテクノロジーに向けて自由なアプローチを体現している。そして作者は、「それぞれがそれぞれのやり方で光を当て、（...）それぞれのサウンドトラックを生んだのだ 」と回想する。