ロンドン生まれのロシア系イラン人フォトグラファー、ダニエル・アダミ（Daniel Adhami ）の初作品集。本書はギリシャ南方の地中海に浮かぶクレタ島の広大な山岳地帯に点在する300もの路傍の教会「アイコン・スタンド（icon stands）」を索引的にまとめた写真集である。4年の歳月をかけて制作されたこの一冊は、真っ直ぐで客観的な記録であり、同時に密な旅の記録でもあり、その存在に織り込まれた歴史や神話の数々が紐解かれていく。道路、小道、海岸線、境界、入り口など、島中の曖昧な空間を占めるその様々な形を直感的に集め、緩く自由に索引をつける試みである。この孤独な礼堂はみな、記憶が伝達され保たれることを通じて象徴的な地勢を構成している。

本書はクレタ島の肖像であり、同時に神や祖先と繋がろうとする人類の普遍的な憧れを書き残したものでもある。大陸や文化圏に点在するこの小さな神殿は、単純な目印を超越した存在であろう。過去と現在が混ざり合う神聖なる交差点であり、我々が進んでいく風景について熟考するよう誘っていく。

本書にはあわせて、それぞれの場所の座標と資料が収録された広範な索引が含まれる。あわせて、作家のリリー・マルカーキ（Lilly Markaki）、ルイーズ・カミュ（Louise Camu）、そして作者自身が著した3つの短いテキストが英語とギリシャ語で収録されている。