UNNAMED ROAD by Jungjin Lee (2023)
ニューヨークを拠点とする韓国人写真家、ジョンジン・リー(Jungjin Lee)の作品集。本書は、韓国・釜山の「コウン写真美術館(GoEun Museum of Photography)」で2023年3月から7月に開催される展覧会に伴い刊行された。
本作は、イスラエルとヨルダン川西岸に住む人々の文化的、国際的、個人的生活の複雑さに焦点をあて、国籍もスタイルも異なる12人の写真家が参加したプロジェクト「This Place」(2009-2012年 / フランス人フォトグラファー、フレデリック・ブレナー(Frédéric Brenner)企画)の一環として作者が手がけた一作。「ウエストバンク(West Bank)」と呼ばれるこの地区は、パレスチナ人にとって悲劇の地である。失われた土地を取り返そうとする人々と、それによって生活を奪われた人々が隣り合わせで日々暮らさなければならないこの場所は、約2千年前に旧約聖書でユダヤ人とっての「神が与えた約束の地」と書かれた表現から程遠いように見える。世界でも有数の紛争地帯であるこの場所は、メディアの報道においても紛争そのものと同じくらい極性が見られる。「This Place」は我々にその紛争の向こう側を見るよう導く。
作者は「道端のオリーブの木が見るように」客観的にこの地を見つめようとしたが、蔓延する恐怖と敵意の現実に相対し、圧倒され、やり場のない思いを抱いた。作者が捉えた「This Place」の荒涼とした空と大地は、独自の作風、手法が描く質感に閉じ込められた剥製となり、虚空に描かれている。本作が導く「名もなき道(Unnamed Road)」の終わりには、紛争を超えた何かが待っているようにも思わせる。
気持ちを抽出するには
自分自身の気持ちを鎮めなければならない
しかし、心はそれ自身が蜃気楼であり、
砂漠は姿見なのである。
イスラエルとパレスチナで写真を撮ることは、何よりも感情的な挑戦だった。私の写真は風景の中の永遠であるものを扱っているが、この地では、歴史と紛争、恐れと敵意のレイヤーが私のカメラを悩ませ、やり場のない気持ちにさせた。ウエストバンクの地にはよく赴いた。政治的な目的ではなく、都市と都市の間の風景が好きだったのだ。偏見やジャッジをせずにその土地を見つめるように心がけた。人々の仮面を相手にしたかったわけではないし、自分も仮面をつけたくなかった。オリーブの木が見ているように、私もこの地を見たかったのだ。しかし、私は自分の周りの現実に打ちのめされていた。悲しい気持ちや居心地の悪さを感じることが多く、気づけば居たくもない場所で写真を撮ろうとしていた。非常に困難であったが、今思えば、作家として変わらざるをえなかったのだと思えたし、感謝もしている。最後の旅では、その土地だけではなく、でこぼこで不揃いな地形や動きと一緒に自分の心も見つめることができた。そして、何か根本的なものにも触れることができたように思う。
-ジョンジン・リー