A LIQUID BELONGING by Torkwase Dyson
アメリカ人アーティスト、トルクワセ・ダイソン(Torkwase Dyson)の作品集。2022年11月から12月にかけてニューヨークの「ペース・ギャラリー(PACE GALLERY)」で開催された展覧会に伴い刊行された。
作者の開放的な芸術表現を本の形に昇華した、美しくパフォーマティブな一冊。自身の作品「Black Compositional Thought」で磨かれた哲学に導かれ、作者はその学際的な芸術活動として、解放と抵抗の基礎構造を論じるべく、曲線と長方形のハイパーシェイプと抽象画を描いた。同個展では、サイト・スペシフィックなインスタレーションと多層的な絵画作品を用い、幾何学構造を建築的なスケールで制作・探求することで、新たな空間ないし知覚を体感する形で鑑賞者を誘った。
また本書の制作においても同様に、本を構成する形と行為が戯れるよう読者を促している。多様な形での造本を試み、アクリル、ベラム(犢皮紙)、アセテート、アコーディオン折りなど様々な素材と手法が用いられている。このように、展覧会に付随する要素として密に機能しているため、実際には本書はアート・オブジェに近い出版物となっている。
詩人であり小説家のディオンヌ・ブランド(Dionne Brand)、「ゲティ学術研究所」で近現代コレクションのキュレーターを務めるルロン・P・ブルックス(LeRonn P. Brooks)、アフリカ系アメリカ人研究の教育者でありライターのサイディヤ・ハートマン(Saidiya Hartman)、美術史家のジャレ・マンソー(Jaleh Mansoor)、建築家のメーブル・ウィルソン(Mabel Wilson)が寄稿した書き下ろしのテキストに加え、黒人研究家であるクリスティーナ・シャープ(Christina Sharpe)と作者との対談を収録。