RECORDER by Miranda Lichtenstein

アメリカ人フォトグラファー、ミランダ・リヒテンシュタイン(Miranda Lichtenstein)の作品集。作者の世界を堪能できる没入的な一冊。作者は社会の周縁に追いやられた現代的なランドスケープ、屈折した静物写真、パフォーマンスを取り入れたポートレイト、プロセスに焦点を置いた抽象写真など、写真史の中で派生した多様なサブジャンルの写真を20年近くにも渡って撮り続けてきた。本書では、テクノロジーと写真表現という枠組みの中で自ら変化し新しい方向に向かうイメージからなる野心的な3部作で新たな境地を切り開いた。複数のレイヤーが重なり合う本書のイメージは、全てアメリカ人アーティストのJ・ストーナー・ブラックウェル(J. Stoner Blackwell)の作品『Welcome Water』から作られている。使い捨てのプラスチックバッグをカットし、縫い合わせて作った壊れやすい敷物のような彫刻作品を、作者はブラックウェルの協力のもとにフラットベッドスキャナーでスキャンした。1度使ったら捨ててしまうプラスチック製品のムダと環境に与える負荷をテーマに、Welcome Waterの制作過程で発生したゴミであるネガの切り抜きやテストプリントを写真として生まれ変わらせることで新たな命を与えている。プラスチックの袋をレーザーで細かくカットしたブラックウェルの作品を撮ったモノクロのシリーズ『Holes』、使われなかった切り抜きを実際に重ね合わせ、ピンで止めて固定し、写真の中央に何もない空間を残した『Grounds』、作品の中でも最も大胆な抽象作品である『Untitled』は、素材の印刷とスキャンを何度も(最大30回)繰り返し、印刷による画質の低下を逆手にとって生み出した目も眩むようなイメージからなる。こうしてできた3つのシリーズは、それぞれがはっきりとした特徴を持つと同時に密接に絡み合っている。 インクやプログラム上のエラー、誇張や不明瞭化といたレイヤーを重ね合わせることによって、素材は表現の形式から解放され、純粋に視覚的な抽象画に昇華されている。作者の挑戦的で魅惑的なイメージは、画像作成技術を限界まで活用し、時にはそれに抗らいながら画面を埋め尽くし、変容させる連鎖反応のループから生み出されている。様々な形が溶け合い、計り知れない奥行を持つイメージは最終的に何かを解決する訳ではないが、この深遠の中に我々は明確で一貫した思考の糸を見出すことができる。そしてそれは、記録と隠蔽という写真の双方向的な性質と、無駄や消費、人新世が引き起こした環境の変化についての考察を結びつけている。

by Miranda Lichtenstein

REGULAR PRICE ¥5,280  (tax incl.)

softcover
104 pages
222 x 285 mm    
color, black and white
2021

published by LOOSE JOINTS