イギリス人アーティスト、レイチェル・ホワイトリード（Rachel Whiteread）の作品集。2018年から2019年にかけてロンドンの「テート・ブリテン（Tate Britain）」、「ワシントン・ナショナル・ギャラリー（National Gallery of Art, Washington）」ミズーリ州の「セントルイス美術館（Saint Louis Art Museum）」か開催した大規模回顧展に伴い刊行された。本書は、作者の幼少期の記憶からホロコーストでの恐怖まで、その秀逸な実践で作者が扱ったテーマを幅広く探求する。心理的な要素が色濃く現れている作品で知られる作者は、ネガティブな空間を使い、孤独、家庭内の閉塞感、疎外感、個人的・公的な歴史に関する感情を喚起させる。

本書は、ロンドンにある小さなアパートの内部空間そのものを石膏で型取りし、事実上裏返して外に持ち出した初期作品「Ghost」から、ニューヨークのガバナーズ島に近年建設されたコンクリートの小屋「Cabin」まで、30年以上にわたる活動で生まれた代表作を全て紹介している。さらに、個人的な主題から公共的なテーマまで、作者が実践を通してアプローチしてきた様々なテーマを探るエッセイを収録。美しく造本された本書では、ふんだんに用いられたフルカラー図版で作品を豊富に取り上げており、たった1人の力で現代彫刻の世界を拡張した作者の作品を包括的に概観できる1冊に仕上がっている。