南アフリカ・ヨハネスブルグ生まれのアーティスト、 アダム・ブルームバーグ（Adam Broomberg）の作品集。一連の偶然の出会いによって生まれた本作は、芸術や人生にはびこる制限的なカテゴリーに直面する経験の中で生まれる偶然性や即興を受け入れることで作られている。本シリーズは、アーティストであり教育者でもある作者が、トランスジェンダー活動家であり女優のジェルサンド・スペルスバーグ（Gersande Spelsberg）を撮影したポートレイトで構成されているる。スペルスバーグとブルームバーグは、100枚に及ぶポートレート写真を5x4インチのネガフィルムに鏡と太陽だけを用いて撮影した。これは、フォトグラファーのヘルマー・レルスキ（Helmar Lerski）が屋外で鏡を用いて撮ったポートレイトのシリーズ『Metamorphosis Through Light』と同じ手法をとっている。

スペルスバーグが変化していく様は、現代のジェンダー・ロールを形成している多くの害悪とも言える既成概念を反映し、そこに疑問を投げかけている。アメリカ人詩人のCAコンラッド（CAConrad）の著書『(Soma)tic Poetry Rituals』は、それまで固定的であり普遍のものと感じていたアイデンティティへの対峙に関するロードマップとして存在する。ブルームバーグは、2人で制作したポートレイトの見せるきらめく響きを、コンラッドの詩『Glitter in My Wounds』に出会うことで見出した。

妥協という言葉を知らない3種3様のアーティストたちの交わりによって形成され、「アイデンティティ」と「出会い」を色鮮やかに考察して生まれた本作は、ポートレイトと詩学という象徴的な組み合わせによって、この世の中で凝り固まっている慣習に立ち向かっている。