THE ENTERTAINERS 1982–1983 by Richard Prince
アメリカ人アーティスト、リチャード・プリンス(Richard Prince)の作品集。女優、モデル、歌手の卵など、まだ世に知られていないような存在の宣材写真を用いたシリーズ。元のイメージに明るい色やグラフィック要素を加え、フォーカスをぼかし、コントラストを高め、のぞき見ショーなどのように安っぽい転用への想起を促す派手な見栄えにあえて仕上げた。多数の写真を並べることで、元となるイメージから文脈やキャプションを切り離し、それぞれが持っていたかもしれない個性を平坦にし、その何もないところに物語を仄めかしている。掲載されているうちいくつかの写真にはグロス加工が施され、光沢によってより色や派手さが強調されている。
本作は、1949年に生まれた作者がニューヨーク42丁目やタイムズスクエアの劇場、グラインドハウス(映画館)、バー、レストランの周辺で時を過ごし、「タイムライフ(Time-Life)」社に勤務して雑誌の切り抜きなどを使って制作をしていた「タイムライフ時代」に制作された、あまり目にすることのなかった作品シリーズである。
1981年に初版が刊行された「The Counterfeit Memory(偽造された記憶)」と題されたエッセイの中で、作者は「オーリンズ・シアター(the Orleans Theater)」に迷い込んだ時の事を「そこにいる時の自分がいったい何者なのか、実際、居心地が良いのか、そこにいたいのか、全くわからなくなる。目の前にあるものが反転し、透明になり、演出され、生産されるとき、人のアイデンティティは簡単に変わってしまうようだ」と記している。
ポートレイトを含む初期の作品の中で、作者は「ジークムント・フロイトとしてのモンゴメリー・クリフト(Montgomery Clift as Sigmund Freud)」や「彼自身としてのジョージ・リーヴス(George Reeves as Himself)」といった精巧に描かれたドローイングとともに、宣伝用のヘッドショット、ゴシップのコラム、ナイトクラブの広告、ポルノ映画といった儚く写真的なセレブリティをとらえている。本書の最後を締め括るエッセイ「The Lone Ranger」の中で作者は、「私は3位を目指そうと思う......1位はヒーローのために残しておこう」と述べている。