UNEASY LISTENING: NOTES ON HEARING AND BEING HEARD by Anouchka Grose & Robert Brewer Young
オーストラリア人精神分析医のアヌーシュカ・グローズ(Anouchka Grose)とアメリカ人バイオリン職人のロバート・ブルーワー・ヤング(Robert Brewer Young)によるエッセイ集。
良い聞き手の条件とは何か。忍耐力、寛容さ、いつでもその役割に回れること、反応の良さ、道徳的な判断が欠如していることなど、一般的に言われる「聞き手」を構成する要素は数多くあるが、それはそんなに単純なことなのだろうか。その素質とは、簡単に習得できるスキルなのか、それとも気まぐれであったり、生まれつきの才能によるものなのだろうか。なぜある人々はそのほかの人々よりも良い聞き手なのか。
それぞれ精神分析医とバイオリン職人であるグローズとヤング。前者は音声や話し方、後者は楽器に関するプロの「聞き(聴き)手」である。本書は、全く異なる種類の「聞き手」である作者2人の対話である。全く関わり合いのなかった2人だが、精神分析理論、哲学、現代の政治や文化など、幅広い分野の文献を織り込みながら、コミュニケーションに関する魅力的で遊び心に溢れた、一筋縄ではいかない瞑想的な研究に着手している。両者の実践や研究の違い、また類似性、共鳴する部分を論じながら、その対話が生む啓蒙的な問いや困難に立ち向かう。思想家であり実践家でもある2人が、「聞く」とはどういうことかについて語ろうと、互いを受け入れ、遮り、戸惑いながら出来上がった本書は、ある種不器用な二重奏と呼ぶべき一冊となっている。
本書はイギリスの出版社「MACK」が刊行する、文化論者やキュレーター、アーティストが1つのテーマや作品、思考をテキストで掘り下げるシリーズ「DISCOURSE」の1冊として刊行されている。
「不思議なことに、見過ごされがちなテーマに関する注目すべき一冊。作者が示しているように、ひとたび私たちが聞くことに対して耳を傾ければ、なにか並はずれたことが起こり始める。」ーイギリス人心理学者 アダム・フィリップス(Adam Phillips)
「本書は聞くことについての生き生きとした、感動的な探求である。作者らの遊び心と不遜な態度が、研究に対する真剣さと美しく調和し、笑いに溢れた一冊。他者の話を聞くという行為が持つ奇妙でもあり、素晴らしい魅力に改めて気付かされた。」ーイギリス人作家 キャサリン・エンジェル(Katherine Angel)