VISITOR by Vincent Ferrané

フランス人フォトグラファー、ヴァンサン・フェラーネ(Vincent Ferrané)の作品集。パリの女性アーティスト17名をそれぞれのスタジオで撮ったシリーズを一冊に纏めたもの。アーティストにとってアトリエは単なる仕事場ではない。時には秘密にされることもある、親密で複雑な性格を帯びたこの空間は、自由と実験に捧げられた場所であり、アーティストたちはここで制作に没頭し芸術家の苦悩を味わう。フランス語で「深淵の状態にすること」という意味の「ミザナビーム(Mise en abyme)」は、あるモチーフ、または主題の中に、同じようなモチーフが入れ子構造で入っている表現・手法を指すが、アーティストとその作品にとってアトリエはまさにこのミザナビームの場所であり、そこではどんなに些細な事でもきちんとした理由を持っている。美術史家のリンダ・ノックリン(Linda Nochlin)は、1971年に発表した先駆手的なエッセイ『Why Have There Been No Great Women Artists?(なぜ偉大な女性アーティストが生まれなかったのか?)』の中で美術史とその権威的な団体について痛烈な批判を述べたが、その頃に比べれば女性アーティストを取り巻く状況は確かに好転したといえるだろう。しかし、芸術学校では生徒の大半が女性であるというのに、2018年現在、芸術分野で活躍している女性アーティストは未だに少数派である。作者は、神秘のベールに包まれた創作行為とアーティストの張りつめた精神状態やひたむきな姿勢を写真に捉えるためにその距離感を探った。本書に出てくる女性たちは、典型的な「女性アーティスト」のカテゴリーには当てはまらないが、彼女たちがアーティストであるということはイメージに切り取られた制作プロセス、ジェスチャー、使っている道具、彼女たちの身体と制作中の作品との関係性を見ればおのずから明らかである。本作は、こうしたアーティストたちのポートレイトが持つ絶妙なバランスの上に成り立っている。「女性であること」はその他の数々の要素の一つ過ぎないと名言することはできるだろうか。同じ女性アーティストでも、特にこれを自分の作品の中心に据えることを戦略的に選択したアーティストにとっては必要不可欠な要素なのかもしれないが、「女性であること」は二次的あるいは偶然の結果でしかないと考えているアーティストもいる。本書において被写体は、キュレーションの概念からは離れて女性であることを第一条件に、あるいはジェンダー研究の観点から選ばれている。アトリエという空間と、制作途中の作品に息づいている何かが生まれる貴重な時間。そのような通常では見えない部分を収めた本作は、17名の女性アーティストたちがスタジオで日々成し遂げている素晴らしい偉業をつぶさに見つめる機会を与えてくれる。本書に登場する女性アーティストたちは、全員がパリの新しいアートシーンの一員で、絵画、彫刻、インスタレーション、パフォーマンなど幅広い芸術活動に携わっている。

参加アーティスト(登場順):アメリ―・ベルトラン(Amélie Bertrand)、アポロニア・ソコル(Apolonia Sokol)、カロリーヌ・コルバッソン(Caroline Corbasson)、クロエ・クエナム(Chloé Quenum)、エヴァ・ニールセン(Eva Nielsen)、ジョージア・ラッセル(Georgia Russell)、ジャンヌ・ブリアン(Jeanne Briand)、ジェニファー・コーベ(Jennifer Caubet)、ジュリー・ボーフィス(Julie Beaufils)、ルシール・ウルリヒ(Lucille Uhlrich)、マリオン・ヴァーブーム(Marion Verboom)、マチルド・ドゥニーズ(Mathilde Denize)、モード・マリス(Maude Maris)、ミモザ・エシャール(Mimosa Echard)、ミレイユ・ブラン(Mireille Blanc)、サラ・トルシェ(Sarah Trouche)、ゾエ・ドゥ・スマニャック(Zoé de Soumagnat)

by Vincent Ferrané

REGULAR PRICE ¥6,820  (tax incl.)

hardcover
104 pages
215 x 275 mm
color
limited edition of 500 copies
2018

published by LIBRARYMAN