IN BLOOM by Jean-Vincent Simonet [SPECIAL EDITION]
フランス人アーティスト、ジャン=ヴァンサン・シモネ(Jean-Vincent Simonet)の作品集。作者の作り出す途方もない混沌が渦巻く不規則で過剰な作品群は、カオスな世界に流れる詩情のさらに一歩先へと向かう。本作は、作者が2016年9月に初めて日本を訪れたのをきっかけに生まれた。東京と大阪で過ごした夜は、感覚を狂わせるほどにパワフルな体験だった。性的な出会い、ナイトパーティーと、夜更けに都市を徘徊する中で目にした光景が溶け合い、1つの視覚的な情報の塊となって目の前で展開していく。うねうねと蠢く都市は、まるで夜になると変身する生き物に見えてくる。作者にとって日本は、水の底に住まう伝説の怪物に近い存在だった。アナログで撮影したイメージを実験的な手法を使って変化させ、またその変化は流れる水のように姿を変え続ける生命体に飲み込まれ、ゆっくりと消化されていく感覚を暗に表現している。インクが完全に乾くことのないプラスチック紙や彫刻用レジンに印刷した画像の表面を、水や薬品、長時間露光、懐中電灯の光などを使って変容させる。記憶の中の光景が溶けて流れていくようにイメージは抽象化され、判別し難くなっていく。東京と大阪への旅行記ともラブレターともとれる本書は、日本のアンダーグラウンド・カルチャーの心臓部へ入り込んだ旅の強烈で超視覚的な記録であり、生まれて初めての異国の地を外国人として見るという圧倒的な体験に捧げた歌でもある。本作はクレイジーな夢のシークエンスとして読み解くこともでき、都市という巨大な生物の腹の中で過ごした数えきれない夜が決して明けることのない一夜に凝縮されたような感覚で満ちている。
特装版に付属するプリントは作者自身の手で化学的に加工しており、結果が予測不可能なため一点一点が異なる仕上がりとなっている。この加工プロセスは非常に複雑な手順を経ており、化学物質の不安定な性質と相まって作者も予期しない美しい仕上がりを生み出している。作品集に収録された作品でもこの加工を使用しており、東京という都会の夜に起きる変容を表現。また、作品集とプリントは作者によるハンドメイドの樹脂製カバーに収納されている。