ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、ツァイ・ウェンユー（蔡文悠 / Wen-You Cai）の作品集。ニューヨークで育ったため、父であるツァイ・グオチャン（さい・こっきょう / 蔡國強 / Cai Guo-Qiang）や母の祖国を知らない作者が、亡くなった親戚の葬儀に参列するため、両親の故郷である福建省泉州市に2015年以降何度か訪れた。ミンナン（閩南）地方での儀式は、壮大なドラマのように展開する。作者は観察者であると同時に参列者でもあるが、儀式の間中、作者は未知の世界に包まれ、すべてが綿密に準備されているように感じた。愛する人を失った圧倒的な悲しみの中には戸惑いがあり、写真を撮ることは作者にとって葬儀の過程に関わる手段のひとつであった。本シリーズの制作にあたり、当初、作者は複雑な葬送の儀式やミンナン特有の文化に対する戸惑いや好奇心と絡み合いながら、死に対する恐怖に直面した。それを解明するため、出版社とともに、1カ所で必要な全てが完結する「ワンストップ・サービス」を提供する葬儀屋、仏教に基づく儀式を執り行う僧侶、ミンナンの儀式を研究する民俗学者にインタビューを敢行した。本書は、家族のアルバムであったり、キュレーションされた写真集であったり、未だ終わらぬ発見の旅、はたまた自分の死と和解する過程など、多様な形で解釈をすることができる。グラフィック・デザイン・スタジオ「RELATED DEPARTMENT」が装丁を手がけた本書は、デザインチームが作者のレンズを通じて見た葬儀の品々や儀式の様子からインスピレーションを得て、ミンナンの地域的特徴を生かした構成、レイアウトのヴィジュアル・コンセプトを作り上げている。