WRITING TIME by Hanne Darboven

ドイツ人アーティスト、ハンネ・ダルボーフェン（Hanne Darboven）の作品集。コンセプチュアル・アーティストとしての芸術的実践と、紙の上に時間を刻むという形を用いた、その極めて個人的なマーク・メイキングを研究した。2023年10月から2024年2月までテキサス州・ヒューストンの「メニル・コレクション（Menil Collection）」で開催された展覧会に伴い刊行された。

作者は、数式やイメージのコラージュで埋め尽くしてフレームにおさめたシートを用いる没入型のインスタレーションで最もよく知られている。本書ではドローイングという視点から作者の生涯と作品にアプローチし、簡潔に、その芸術活動における三つの大きな分岐点に焦点を当てた。1960年代後半の2年間にわたるニューヨーク滞在の折に横断と鏡像の手法を用いて制作された抽象作品「Konstruction」のドローイングから始まり、次に、とある日付や期間をひとつの数字に計算し直す公式群に対し、いかに作者がそのドローイングを適用させ、カリグラフィー的な線のシリーズや連続して描かれた一連の箱などの、ありとあらゆるもので表現していたかを示す。最後に、作者の公式ルールに従って20世紀のすべての日を記録し、活版印刷技術の発明者であるヨハネス・グーテンベルク（Johannes Gutenberg）から飛行機開発者であるライト兄弟（Wright Brothers）まで、20世紀の各10年間を代表する発明家を割り当てた1996年のインスタレーション作品「Inventions that Have Changed Our World」に注目して締めくくる。本書は魅力的な概観書として、作者の作品がいかに直線的・客観的な尺度とされる時間に対して挑戦し、芸術と人生に非常に特異な解釈をもたらしているかを明らかにする一冊である。