A DIM COZY ROOM by Shigeo Otake

日本人アーティスト、大竹茂夫の作品集。芸術家であり研究者でもある作者にとって初めての作品集である本作は、不思議な世界観を持つ作者の絵画作品に登場する幻想的な生き物たちを紹介する。その姿は、身体の一部が人の姿を成し、別の部分は菌類の姿をしている。64点の絵画作品に加え、フィールド・リサーチで撮影したカラー写真38点、作者によるエッセイを収録し、40年のキャリアにおける奇妙なヴィジョン、作者の言葉を借りるのであれば「日常と異世界が共存する 」ヴィジョンの変遷を明らかにする。

作者はこれまでにも不可思議で神話のような人物を描いていた。ある時、何気なく出会った野生の大きなキノコが、長きにわたり菌類学へ心酔させるほど心に火を点けただけでなく、文明の終焉という不穏な図を作者に植え付けた。虫に寄生するキノコである「冬虫夏草」は、「私の想像を遥かに凌駕するほど奇怪な形をしており、すっかり虜にさせられた」と作者が書くように、キノコが人間の肉体や精神と融合し、ハイブリッドな意識を持つまったく新しい種を生み出す未来を想像させたのである。めまいを呼ぶようでありながら哀しみをも帯びたその絵画には、頭から触覚のような菌類が生えていたり、髪の毛があるはずの場所にキノコが被されている人々や、奇妙な生き物が参加するパレードや葬儀のシーン、若者が背伸びをする植木鉢などが描かれている。

若き日に学んだイタリアやスペインの中世・ルネサンス期の宗教美術のように、作者の絵画は精密な筆致をもって、作品に神聖なオーラを吹き込むような生き生きとした構図と柔らかくも宝石のような色調で描かれている。ルネサンス期のオランダの画家であるヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch)が生む狂気じみた奇抜な表現、ピーテル・ブリューゲル(父)(Pieter Bruegel the Elder)の謝肉祭(カーニバル)の風景画からもインスピレーションを受け、作者の遊び心溢れるグロテスクな絵画は、我々の運命や自然界の運命についてひとときの思索を誘うべく、観る者の注意をしっかりと引きつける。

by Shigeo Otake

REGULAR PRICE ¥11,000  (tax incl.)

hardcover
184 pages
229 x 273 mm
color
2024

published by AMERICAN ART CATALOGUES