BOOK OF ROY by Neil Drabble
イギリスを拠点に活動するアーティスト、ニール・ドラブル(Neil Drabble)の作品集。1998年から2005年にかけて、アメリカ人ティーンエイジャー「ロイ」が少年から成年へと成長していく過程をイメージに捉えた。本書に収められた大量の写真はいつまでも色褪せることのない一時期の記録としても魅力的だが、それとじっくりと向き合うことによってコラボレーションやパートナーシップといった関係性や「1人の人間を追ったポートレイト」であると同時に「思春期の普遍的なイメージ」でもあるという機微なニュアンスが見えてくる。家族アルバムに出てくるような重要な出来事や、記録写真につきものである決定的瞬間などはあえて描写していない代わりに、通常は写真にされることのない気だるい時間、日常の中の「どっちつかずの瞬間」に注力している。幼少期と青年期の中間にある思春期には、もうすぐ大人になるという期待感と外の世界から守られてきた幼少期が失われることへの未練との間で葛藤が生まれる。顧みられることのない時間の取るに足らない変化にフォーカスしたこの写真は、見る者を思春期の真っただ中にいるような気持ちにさせる。人格が形成される重要な時期に1人の人物を親密な関係性の中で繰り返し撮影していると、自己の鏡像を作っているような感覚が湧き出てくる。それはまるで青年期にあるアーティスト自身の中に眠っている何かを再び目覚めさせるような、ポートレイトとセルフポートレイトの境界線を曖昧にするような作業である。陰鬱な1970年代のマンチェスターでアメリカのTV番組を見ながら育った作者は、ピザを食べ、ドクター・ペッパーを飲み、友達と夜遅くまで電話でおしゃべりして、雨の中バス停で待つのではなく自分の車を運転して好きなところへ行く、そんなティーンエイジャーたちがTVの中で送っているキラキラ輝く思春期の日々について妄想していたという。この作品で作者は、ロイを撮るというプロセスと、年上のフォトグラファーと年下の被写体との間で生まれたコラボレーションによって10代の自分を再演し、大西洋を越えて思いを馳せていたアメリカ人の若者の代役であるロイのあらゆる姿に自分自身を重ね合わせることができたと解釈することもできる。