イギリス人アーティスト、オリー・ケレット（Oli Kellett）の作品集。作者の初モノグラフである本書は、ロンドンの「ハッケルベリー・ファインアート（HackelBury Fine Art）」で開催された個展に伴い刊行された。

本書では、作者による同名の代表的シリーズからセレクトした33点の写真作品を収録。アメリカが文字通り政治的「交差点（CROSS ROAD）」に立たされた2016年、ロサンゼルスへ訪れた時に作者は本プロジェクトに着手した。当然、本シリーズはその点を出発点としており、作者がスペインや日本、ブラジル、メキシコなどの他国で作業を続けるにつれ、より普遍的な意義を持つようになった。

親しみ深い場所であり、我々が人生において感じる緊張感のメタファーでもある交差点を舞台としている点が、作者のイメージのひとつひとつに含まれるコンテクストである。「 私たちはフェイクニュースや政治的対立、アルゴリズムによるエコーチェンバー現象の時代を生きています。オンラインとオフラインでいくつものアイデンティティを持つことにより、私たちのこの世界の体験はばらばらに分裂しています。しかし、交差点は民主的な場です。誰しもが待たないといけないのだから」と作者は語る。

作者は、自然光や神秘的な構成を巧みに用いることで、舞台にあがることのなかった場をまるで映画のように写し出した。都市的空間における没個性と人間的体験で現れる個性のコントラストが、人間の精神に対する作者の深い関心を表している。作家で哲学者であるナイジェル・ウォーバートン（Nigel Warburton）が本書の導入部分のエッセイで語るには、「 各個人が踏み出そうとしている一歩は、ただ道を渡るというよりも、よほど重大な一歩に見える」のである。

静かな空間やメランコリックな瞬間をもってアメリカの生活を表現したことで知られるアメリカの偉大な画家、エドワード・ホッパー（Edward Hopper）のファンとして、作者は交差点で待つ人々の日常を撮った魅惑的な写真作品を制作し、現代の力強いメタファーを生んだ。

ナチュラルなアート紙に鮮やかに印刷し、厚手のボール紙を濃いグレーの布で包み製本して仕上げられている。