DISTINGUISHING PISS FROM RAIN by Glenn Ligon

アメリカ人アーティスト、グレン・ライゴン（Glenn Ligon）の作品集。現在活躍するアーティストの中でも最も偉大な人物の一人として評価を得ている作者が、20年近くにわたり手がけてきた作品群とともに、人種や芸術、ポップカルチャーに関する作者自身の考察を読み取ることができる。1980年代にその才能の頭角を現して以来、作者はアメリカにおける人種、歴史、性のあり方、文化を鋭い視点で追い、ネオンやインスタレーション、絵画作品で表現してきた。本書は、作者による著作とインタビューを収めた待望ともいえる一冊である。

元々文章に対しては慣れ親しんでおり、ジェイムズ・ボールドウィン（James Baldwin）、ゾラ・ニール・ハーストン（Zora Neale Hurston）、リチャード・プライヤー（Richard Pryor）、ガートルード・スタイン（Gertrude Stein）などの著作を日常的に活用しながら作者は、芸術界や文化界の大部分において歴史的に白人が在り続ける背景の中で、黒人を中心に据えた作品を構築している。2000年代初頭から執筆活動に着手し、ジュリー・メレツ（Julie Mehretu）、クリス・オフィリ（Chris Ofili）、ローナ・シンプソン（Lorna Simpson）らアーティスト仲間たちと深く繋がりながら、フィリップ・ガストン（Philip Guston）、デイヴィッド・ハモンズ（David Hammons）、アンディ・ウォーホル（Andy Warhol）のような先人たちの作品とも大いに関わってきた。唯一無二の声や魔法使いのような語り口をもって、美術史や、より広範な文化的シフトに対する鋭敏な視点を織り交ぜた本書は、現代における偉大なる記録者の一人として、作者のその地位を確固たるものとしている。