HARDTACK by Rahim Fortune
アメリカ人フォトグラファー、ラヒム・フォーチュン(Rahim Fortune)の作品集。10年間にわたり撮り続けた歴史と風景に根ざしたポートレイトを通して、アメリカ南部における黒人文化と伝統が持つ不朽の気質を掲げた一冊。
小麦、水、塩。生存主義や土地の移住を連想させ、賞味期限が非常に長い食品としてよく知られる南北戦争時代に生まれた堅パン(hardtack)の材料はこれだけ。アメリカ南部に長く続く黒人文化とその伝統の本質を表すメタファーであるこの史実に基づき、本書は作者の故郷の原風景と奴隷解放宣言後のアメリカ大陸にまつわる衝突や薄ぼんやりとした陰影を結びつけるルーツを露わにする。
好評を博した前作『I can't stand to see you cry』に続き、作者はそのヴァナキュラー写真やアーカイブ写真の言葉を借りて、自身のコミュニティと写真との歴史的な関係を問う。歴史的ないし文化的に重要視される場所を被写体ではなくガイドとして使うことで、現代の黒人コミュニティーが逆境にあろうと順境にあろうと、その地域に粘り強く結びついている深い繋がりを示唆している。
本書における大きなテーマは、作者が描く成人儀式の伝統の中の素晴らしいポートレートである。中には、若きブルライダー、プレイズダンサー、ミスコンのクイーンが、それぞれのコミュニティーの儀式を受け継ぎ、恭しく受け入れている。尊敬の念が込められた作者の凛とした眼差しは、これらの文化的パフォーマンスの厳しさ、規律、創造性、そして伝統の伝承のために若者と年配者の間で交わされる世代を超えた対話に対して敬意を払っている。
10年近くかけて生み出された作品群を集結させた本書は、作者が編みあげてきたドキュメンタリーと個人史の続編であり、作者を個人としても作家としても育て上げた地域に対する自身の愛と情熱が込められた誠実な表現を示すと共に、アメリカ南部を写真に収めるにあたっても重要な貢献をもたらしている。