KINDERTOTENLIEDER by Bill Henson
オーストラリア人フォトグラファー、ビル・ヘンソン(Bill Henson)の作品集。ドイツの詩人フリードリヒ・リュッケルト(Friedrich Rückert)は1833年に2人の子供を相次いでしょう紅熱で失った悲しみに突き動かされて、子供たちの死をテーマに428篇の詩を書いた。それから70年後、作曲家のグスタフ・マーラー(Gustav Mahler)はその慟哭の詩に深い感動を覚え、最終的に5篇の詩を選んで連作歌曲を作曲した。自分たちにも2人の幼い娘がいるのだから、創作することで運命をもてあそぶような真似はやめてほしいと妻のアルマ・マーラー(Alma Mahler)に忠告されたにも関わらず、グスタフ・マーラーは1904年にこの連作を完成させた。それから3年後、アルマ・マーラーが「悲しみと恐怖の年」と呼んだ1907年の夏休み、マーラー夫妻の長女もしょう紅熱で倒れ、マイヤーニックの自宅で息を引き取った。グスタフ・マーラーは家を締め切り、逃げ出すようにそこを離れると2度と戻らなかった。ビル・ヘンソンは、リュッケルトの詩とマーラーの『亡き子をしのぶ歌( Kindertotenlieder ) 』にインスパイアされて1976年から作品を作り始めた。作者はこの作品を40年間に渡って取り組み、マイヤーニックの森や湖、森の深くにグスタフ・マーラーが建てた作曲のための小屋、ヴェルター湖の畔に今も建つグスタフ・マーラーの家から着想を得て夢のような情景を作り出し、そこに少女の亡霊のイメージを組み合わせた。そうしてできたこの作品は全体として思慕と喪失に関する終わることのない美しい瞑想を表している。紙箱入りのハードカバーの限定版として出版された本作は、ヘンソンの写真作品を収めた巻、リュッケルトの詩を活版印刷で印刷した巻、そしてイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団演奏、レナード・バーンスタイン指揮によるマーラーの連作歌曲を収録した12インチレコードの3部構成となっている。