NOTWITHSTANDING by Hudson Hayden
カナダ人アーティスト、ハドソン・ヘイデン(Hudson Hayden)の写真集。精巧に作り込まれた小宇宙の連続の中で、写真が織りなす「文法」と観察された暮らしの中の目に見えない意匠が出会う。
作者の写真は、写真の様々なカテゴリーを抜き取ってそこに穴をあけるように、きめ細やかで理路整然とした言語を作り上げている。静寂と空間のロマンから資本主義的経験についての不確かで揺らいだ表現まで、本作は調子外れのユーモアや歪んだ楽観主義、視覚メディアへの愛に彩られた発話からなる簡単で明瞭なシリーズとして表現されている。
精緻なイメージで構成された本シリーズは、作者がヨーロッパに移住した2016年に始まった。本能的に写真を撮る中で、写真と記号論の交差、写真を順番に並べることで生まれると考えられる物語の歪み、写真に撮るだけで日常的な物体がアイコンに変わることなど、現代のイメージ文化にとってはおなじみのテーマに触れている。また作者の視覚的な語彙はデザインの語彙を思わせる。形とその客観的実在性は写真という平面の上で折り畳まれて踊る形となる。それは視覚的な詩のための高尚な空間であると同時に記憶と楽しみの遊びでもある。
タイトルもまた、作者の写真が持つ不確定で言葉にできないものについて物語る。犬、ボール、湖上のボート、ボウルの中のオレンジなど、そのイメージの多くは、単純なものの描写やあからさまな参照であるにもかかわらず、不思議なほど何か別のもののように感じられる。すぐに手が届くのに本質的に知ることはできないという2つの性質が調和する構図を通じて、初期のポストモダンのカラー写真が持つ
ルイジ・ギッリ(Luigi Ghirri)的な落ち着きから、広告や商業的なイメージ作りにおける不適切さを排除した言葉まで、作者は多様な写真のジャンルを言葉少なに、ウィットを効かせて引用するのである。