REPLICA by Rita Lino
ポルトガル生まれ、 現在はベルリンを拠点に活動するフォトグラファー、リタ・リノ(Rita Lino)の作品集。本書は、いかなる典型的なアイデンティティにも言及せず、また自己がどうあるべきかということに関する今日の現代社会の定義を考慮せずに、身体やモデルを1つの純粋なイメージ、純粋なツールとして我々に新たな視点で読み解くことを提案している。
作者は、20世紀中盤に活躍したアメリカ人フォトグラファー、ウィリアム・モーテンセン(William Mortensen)に対し強く言及している。モーテンセンは、身体は単純に「調整が必要な機械」であると述べ、身体とは基盤でなければならず、「人格や感情の表現(...)とは無関係であり、判断を誤らせる。」と考えた。モーテンセンによるモデルへのアプローチは、カメラの前において身体を意味の持たない物体へと回帰させ、ある種その人間性を奪っていた。モデルをイメージが形作られる粘土としてみなし、身体は制作者の意図によってのみ表現されると考えたのである。人物の感情や人格を排除することで、我々観るものに、身体を被写体ではなく小道具として判断させ、イメージを本質的に見るよう求めていた。
作者の場合、自分自身がモデルであり、同時に制作者であり、被写体であり、そしてイメージでもある。つまり、完全に主導権を持っている。その結果、自分自身を表現から剥離させる方法を見つけ、まるで機械のように自身の身体を純粋な物質・イメージへと希釈したのである。本作は、カメラの前とファインダーの後における役割に対し、作者が到達した解釈、理解を表している。同時に、イメージを誇張するお気楽な機械にアイデンティティが委ねられてしまうような遠くない未来を予見する一作でもある。