RISK by Buck Ellison
アメリカ人アーティスト、バック・エリソン(Buck Ellison)の作品集。
クレジット・レポート、テニスボール、ウイスキーのタンブラー、「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」紙の結婚式のお知らせ。一見すると何の変哲もない、ありふれたものにさえ見える。しかしよく見ると、本書の冒頭を飾る静物写真群は、銀行の広告写真やライフスタイル・カタログのイメージにマッチするように演出やスタイリングがなされ、アメリカにおける白人の富と特権を形式的かつ丹念に表現している。その見せかけの日常性こそが重要なのである。作者は、白人が行使する権力のシステムを永続させる、陰湿でしばしば目に見えない構造を作品の対象としてきた。白人の安全性と暴力性、そしてそれがレンズを通したメディアでどのように保持され、広がったかに目を向ける。そして作者は権力を伝播する道具としてのジェスチャー、マナー、言語という考え方に興味を持つようになった。
本作は同時に、ヨーロッパの植民地主義の歴史とも決して遠くないところにある。植民地初期のアメリカ人の肖像画や、東インド会社を想起させる表紙のブルーの「ベンガル・ストライプ」の生地を用いて言及し、白人による権力の牙城が残した遺産に触れ、歴史的に権力がいかに正当化されてきたかを物語る。
作者の写真が描く茫洋とした静けさや、曖昧に現れている忠誠心は不安を煽る。鑑賞者は、アーティストとして、また人間として作者に対し何らかの疑問を抱くだろう。しかし、白人男性である作者が描いた作品に対し、「この白人のイメージは美術館の展示で一体何をしているのだろう」と感じる瞬間を誘うときにのみ、この作品は成功するのである。この不快感は、白人性がいかに自らを当たり障りのない無害なもの、少し高貴なものでさえあるかのように見せ、にもかかわらず実際にはいかに搾取的で暴力的であるかを写し出している。そして、鑑賞者が思っている以上に、そのイメージとの共通点は彼らの中にも存在するのである。