フランス人フォトグラファー、ジョー・ライ（Joe Lai）の作品集。空想の人物を再現することに魅入られた作者の写真は、まるで映画のセットで宣伝用に撮影されたように見える。スチル写真の形式を模倣しつつ、何か分からない物語の登場人物を再現している。ドラマティックな場面には時にはホラー映画のような不穏な空気が漂う。意図的に意味を曖昧にすることによって、作者は見る者に解釈を委ね、作品の世界に引き込む。本シリーズはパリで友人を撮ったことから始まった。撮影場所は作者の家の近所かスタジオで、使っている小道具も平凡なものだったが、その後日本、中国、香港などでも撮影を行い、物語の登場人物と共に背景を広げていった。シリーズを通じて使われている1960年代から80年代のファッションアイテムが、70年代日本の低予算ホラー映画や、35㎜フィルムで撮影された60年代のピンク映画を思わせる。才能ある人々が関わり、大量に制作されたこのようなジャンルの作品群は、1980年代半ばまで日本の映画界を席捲していた。何十年も前に撮影されたような、時間も場所も良くわからないイメージを通じて、作者は映画史に残る作品に登場した女性たちを讃えようとした。63年間続いた「昭和」の名前には、「平和で開けた時代」あるいは「日本の栄光の時代」という意味が込められている。「Libraryman Award 」2020年受賞作品。