イギリス現代アート界を代表するアートユニット、ギルバート&ジョージ（Gilbert and George）の作品集。本書は2015年にロンドンのギャラリー「ホワイトキューブ（WHITE CUBE）」で開催された展覧会に伴い出版された。作者は長年にわたり新しい作品を発表する度に、付随してカタログを限定冊数ながら刊行し、その多くは今やコレクターズアイテムとなっている。本書もそのうちの一つであり、「すべての人にアートを」という深い信念を元に作者自身がデザインを手掛けたことが謙虚に現れる一冊である。

「The Banners」とシンプルに題された本作は、強烈なスローガンを用いて、信条や順応主義に対してストレートかつ妥協を許さない視覚言語で表現、訴えかける30点の作品群である。作者は新聞の見出し、ポスター、チラシ、街頭看板、セックス広告など、都市で見られるテキストやタイポグラフィーに対しての探究を続ける。一方で、2014年にロンドンの「サーペンタイン・ギャラリー（Serpentine Gallery）」で開催された展覧会「Extinction Marathon」では、作者の代表的なコンセプトでありシリーズでもある「生きる彫刻（Living Sculpture）」と「The Banners」をより具体的に結びつけた。作者は観衆の前で、それぞれ「BURN THAT BOOK（その本を燃やせ）」、「FUCK THE PLANET（地球なんてくそくらえ）」と書かれた横断幕（＝バナー）を手にして4分余り静かに立ちつくすパフォーマンスを行った。

この2人を長きにわたり支持してきたイギリス作家、小説家のマイケル・ブレイスウェル（Michael Bracewell）がエッセイを寄稿。作者特有の筆跡で表現されたこれらのシンプルながらも意味性の複雑な層を明らかにする「The Banners」を鋭く、かつニュアンス豊かに読み解いている。